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毎日新聞2024/7/27 08:01(最終更新 7/27 08:01)有料記事1415文字
復活させた固形せっけんの試作品を手にする木村石鹸工業の木村祥一郎社長=大阪府八尾市北亀井町2で2024年6月3日午後2時23分、新宮達撮影
創業100年を迎えた大阪の洗浄剤メーカーが、原点に立ち返り家庭用の固形せっけんを半世紀ぶりに復活させる。併せて2025年大阪・関西万博に出展するため、環境負荷の低い粉せっけん開発にも取り組んでおり「ようやく社名の通り、せっけんメーカーと胸を張れる」と意気込んでいる。
1924年創業の木村石鹸(せっけん)工業(大阪府八尾市)は今年4月、創業100年を迎えた従業員56人の中小企業だ。近年の主力製品はシャンプーやハンドソープで、その多くで昔ながらの「釜焚(だ)き」製法を採用している。ココヤシなどの天然油脂を大釜で焚き、アルカリ剤で反応させて原料を作る。職人がその日の天気や気温に応じて、材料を混ぜるタイミングを変えるなど経験と勘に頼る部分が多い。
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創業当初は顔を洗う化粧用や洗濯用の固形、粉せっけんが主力だったというが、太平洋戦争中の44年に材料の入手困難で廃業。54年に再興し、60年代に銭湯やクリーニング店向けなどの粉洗剤がヒットした。時期ははっきりしないが、業務用にシフトする中で家庭用のせっけんの製造をやめたという。
ITから家業、最初は気乗りせず
固形復活は創業者のひ孫の木村祥一郎社長(52)が決断した。家業を継ぐのが嫌で、京都の大学在学中に知人とITベンチャーを起業した。一方、木村石鹸工業は、76年に法人化した父幸夫さん(82)が2回にわたって社長を務めたが、後継者が決まらない状況だった。こうした中、父に説得され13年に入社した。
木村石鹸工業がほぼ半世紀ぶりに復活させる固形せっけんの試作品=大阪府八尾市北亀井町2で2024年6月3日午後2時41分、新宮達撮影
当時は、業務用の主力製品がOEM(相手先ブランドによる受託生産)で、しかも売り上げの大半を2社に頼っていた。経営上のリスクを少しでも小さくするため、個人消費者向けの自社ブランド製品開発に取り組んだ。15年4月に発売したのがキッチンクリーナーなどの「SOMALI」で、今や自社ブランド品の売り上げは全体の約4割を占めるまでになった。
「最初は3年でIT業界に戻るつもりだったが、前職では提案しても相手次第で実現できなかったことがこちらではできるし、次第に面白くなった」と木村さん。
そうした中で、20年に固形せっけんを復活させるプロジェクトを始めた。「液体せっけんよりも長持ちし、容器などの廃棄プラスチックや輸送コストも減らせる。固形の良さがもう一度、見直されるべきだ」と考えたからだ。
ただ、ビーカーでは完成しても大きな釜では型崩れするなどの失敗を繰り返した。失敗のリスクを減らすため、油脂などの材料が混ざる時の反応熱を利用し、時間をかけて成型できる「コールドプロセス製法」を採用した。乾燥を含め完成までに2~3カ月かかるが、天然の潤い成分を損なわないのが特長だ。
開発費を確保するため、24日からインターネット上で寄付を募るクラウドファンディング(https://www.makuake.com/project/kimurasoap/)を始めた。期間は10月4日まで。10月以降、寄付者の返礼品に固形せっけんを贈り、一般発売する計画だ。
環境負荷低い粉せっけんも
また、大阪・関西万博の大阪ヘルスケアパビリオンで、八尾市の企業による展示に参加する。水に触れると袋ごと溶ける「粉のハンドソープ」の開発を急いでいる。
木村さんは「万博を通じて、粉や固形せっけんを見直す機会にしたい」と話している。【新宮達】