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毎日新聞2024/8/18 東京朝刊有料記事933文字
<滝野隆浩の掃苔記(そうたいき)>
九州で1人暮らしをしていた母が施設に入った経緯を本欄でつづり「体験談を」とお願いした。50通を超えるメールや手紙が届いたことを前回書いた。離れて住む息子の都合で、母の気ままな1人暮らしをやめさせたのではないか。そんな後悔を共有する読者投書を受け取り、気持ちが少し軽くなった。
男性からの投書が3割もあったことは意外だった。私も取材班の一人だった「長命社会を生きる」という連載(1997年)のことを思い出す。介護や安楽死といった重いテーマについて切実に問う連載は反響を呼び、連日投書が来た。そのほとんどが女性からだった。
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今回、男性投稿が増えたのは、介護保険制度も開始から間もなく四半世紀となり、もっぱら女性の仕事とされてきた介護に男性もかかわり始めたからなのかもしれない。67歳男性のQさんは、記者の発想は「前時代の感傷を引きずっている」という。「子供が親の面倒をみることを美談としてはいけない。子供は年老いた親に煩わされることなく自らの道を歩むべきである」
時代は移り、家族形態も社会の仕組みも大きく変わった。それに合わせて考え方も変えていいはずだ。親をみない、というのではない。いい親子関係を保つために、接する心持ちを少し変えるのだ。
69歳女性のTさんは5年ほど前、母にグループホームに入ってもらった。認知症の母も支える自分たちも疲れ果て、共倒れ寸前だった。いまは残った家族の幸せが最優先でいいと思っている。自分たち夫婦が高齢になり介護が必要になったら「有無を言わさず施設に入れて」と子供にはすでに話している。「これで勘弁してください、お母さん」
投書には「入所後の態度」に関するひと言も。
「ここからがホンマの勝負じゃないでしょうか? めちゃくちゃ安心した息子の気持ちをお母さんに素直に伝えていい」(Kさん) 「私はちょくちょく会いに行ける距離でしたが、遠方となると難しい。でも、極力、会いに行ってあげてくださいませ」(Оさん) 「入所前と同じくらい連絡しないと、お母さまから『安心したら連絡もせんとね』と言われるかも」(Eさん)
読者は励ましてくれるけど、大事なキツい指摘も忘れない。とてもありがたい。(専門編集委員)