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毎日新聞2024/8/18 東京朝刊有料記事2223文字
<気になる>
パソコン、スマートフォン、テレビ、自動車などあらゆる電子機器に使われている半導体(はんどうたい)。その重要性から近年は国家の戦略物資として位置づけられ、米エヌビディアや台湾積体電路製造(たいわんせきたいでんろせいぞう)(TSMC)といったメーカーの動向は世界中で注目されています。ただ、仕組みは複雑で、種類も千差万別(せんさばんべつ)。今回はその科学的な性質や基本的な働き、デバイスの種類を解説します。
◆どんな役割があるの?
電子の動きをコントロール
なるほドリ 半導体ってどんな物質が使われているの?
記者 半導体の「半」というのは、電気を通しやすい「導体(どうたい)」と、電気をほとんど通さない「絶縁体(ぜつえんたい)」の中間の性質を持っている、という意味です。導体には鉄や銅(どう)、アルミ、絶縁体にはゴムやガラスなどがあります。半導体の材料の代表はシリコン(ケイ素)です。
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Q なぜその性質が役に立つの?
A 普段は絶縁体に近いのに、熱や不純物(ふじゅんぶつ)を与えると導体になるからです。特に少量の不純物を加えるだけで、電気的性質ががらりと変わることが役に立ちます。電気の流れは、電子の移動ですよね。この電子の動きを自在(じざい)にコントロールできるので、さまざまな機能を持たせられるのです。
Q イメージするのが難しいなあ。
A まず、ケイ素だけの場合で考えてみましょう。原子核(げんしかく)の外側には、電子が回っています。その最も外側の軌道(きどう)を回っている電子を「価電子(かでんし)」と呼び、ケイ素の場合は四つあります。ケイ素の結晶(けっしょう)は、隣(とな)り合うケイ素原子が価電子を一つずつ共有することで、安定して結合しています。4本の手を互(たが)いに握(にぎ)り合っているイメージですね。
Q それに不純物を入れるとどうなるの?
A 例えば価電子が五つのリンを添加(てんか)します。そうすると電子が一つ余り、自由に動ける電子となって、導体に近い性質になります。これをn型半導体といいます。逆に、価電子が三つのホウ素を混ぜると、電子が足りずに穴(正孔(せいこう))ができます。この穴を埋めようと電子が次々と移動することで、電子の代わりのような働きをします。これはp型半導体と呼ばれます。p型とn型を組み合わせることで、電子機器の役割を持たせられるのです。
Q どんな役割があるの?
A 主に三つあります。一つ目は「スイッチ」。電気を流したり止めたりする機能ですが、このオン/オフを数字の1/0に対応させることで、計算ができます。1と0の2進法(しんほう)で情報処理をしている、コンピューターの「頭脳」としての役割を果たすことができるようになります。
二つ目は「増幅(ぞうふく)」で、入力された信号よりも大きな信号で出力します。例えば微弱(びじゃく)なラジオの電波も、このおかげで聞こえるようになります。
三つ目は「変換(へんかん)」で、光や力を電気信号に変えます。デジタルカメラの内部では光を電気信号に変換しています。逆に電気信号を光に変えることもできて、発光ダイオード(LED)はその一例です。
◆どうやって性能向上したの?
部品を微細化する技術が発展
Q いろんな種類があるんだね。
A 半導体を使った電子部品のことを半導体デバイス(半導体素子(そし))といいます。増幅やスイッチの機能を持つトランジスタと、電気の流れを一方向にするダイオードは基本的な半導体デバイスです。このような一つの素子から成る半導体を「ディスクリート」と呼びます。電力を効率(こうりつ)的に制御(せいぎょ)して省エネをもたらすパワー半導体も、その一つです。
一方、トランジスタなどの素子を集積(しゅうせき)させたものが「集積回路(かいろ)(IC)」です。演算(えんざん)機能を持ち、電子機器の頭脳となるCPUや、画像・映像を描画(びょうが)するGPUなどは、論理(ろんり)を意味する「ロジック」と呼ばれるICです。米エヌビディアは人工知能向けのGPUで世界を席巻(せっけん)しています。こうした高性能のロジック半導体の中には、何と1000億超のトランジスタを搭載(とうさい)している物もあります。
ICではない半導体(非IC)はディスクリートの他に、センサーや光半導体などがあります。
Q どうすれば一つの部品に1000億個もの素子を搭載できるの?
A 「微細化(びさいか)」といって、トランジスタの幅(はば)などを極(きわ)めて小さくして集積する技術のおかげです。それによって半導体の性能は飛躍的(ひやくてき)に向上してきました。世界最大級の半導体メーカー、台湾のTSMCは、微細化の技術で世界をリードしてきたと言えます。
Q 日本はどうなの?
A 日本政府が1兆円を投じる新興(しんこう)の国内半導体企業「ラピダス」も、微細化を進めて次世代半導体の量産を目指しています。半導体に詳しい大阪大学の森勇介(ゆうすけ)教授(結晶工学)は、「すぐにビジネスで大成功するのは難しいかもしれないが、国産の微細化技術を持てるか否かは国の存亡(そんぼう)に関わる」とラピダスの事業の重要性を説明しています。(くらし科学環境部)<グラフィック 加藤早織>
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