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毎日新聞2024/10/3 07:30(最終更新 10/3 07:30)有料記事1756文字
「Meiji Seika ファルマ」が販売する新型コロナウイルスのレプリコンワクチン=同社提供
1日から始まった新型コロナウイルスワクチンの定期接種で、「レプリコンワクチン」と呼ばれる新しいタイプのワクチンが使われている。ワクチンに含まれるメッセンジャーRNA(mRNA)が接種後に細胞内で複製されるもので、感染を抑える抗体の量(中和抗体価)を長く維持できる可能性がある。メカニズムや、有効性・安全性についてまとめた。
複製するmRNA
このワクチンは製薬メーカー「Meiji Seika ファルマ」が供給と販売をしている。接種すると、ウイルスから体を守るための抗体ができる仕組みは、これまで使われてきたファイザーやモデルナのmRNAワクチンと同じだ。
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レプリコンワクチンの仕組み
加えて、レプリコンワクチンのmRNAには、mRNA自体を複製する酵素(レプリカーゼ)を作る設計もある。この酵素が働き細胞内でmRNAが複製されるため、mRNAの接種量は従来のものと比べて6分の1から10分の1ほどとなっている。
臨床試験で有効性確認
薬の承認審査をした医薬品医療機器総合機構(PMDA)の審査報告書によると、デルタ株流行下のベトナムで約1万6000人を対象にした初回接種(1回目と2回目の接種)の臨床試験(治験)では、発症を約57%抑える効果と、重症化を約95%抑える効果が確認された。
追加接種として約800人を対象にした国内の治験では、中和抗体価が、ファイザー製に劣らないことが確認された。
また、追加接種から3カ月後のオミクロン株に対する中和抗体価は、ファイザー製に比べて高い傾向がみられた。ただ、こうした抗体価の差がどの程度、発症や重症化予防の効果につながるかについては、審査報告書は「現時点では不明だ」としている。
安全性は大きく変わらず
安全性については治験では、接種後は痛みや発熱などの軽度や中等度の症状が多かった。審査報告書では、従来のmRNAワクチンと大きく変わらないと判断された。
では、「自己複製するmRNAが増え続ける」ことはないのだろうか。
記事後半では専門家の見方を紹介します。
審査報告書では、マウスを使った接種部位の筋肉に残るmRNA量を調べた実験結果が示されている。レプリコンを含むmRNAは、含まないmRNAと比べて数日間は高濃度だったが、15~30日後には両方ともわずかに検出されるだけになった。
このため「残存期間が顕著に延長することはないと考える」とされた。副反応の出る期間も、これまでと明らかな差はなかった。
mRNAを用いた創薬研究に詳しい位高(いたか)啓史・東京科学大教授は取材に「開発元の製薬企業から公表されている動物実験のデータでは、レプリコンであっても通常のmRNAと比べて、壊れて減少していくスピードを穏やかにするくらいの結果になっている」と述べた。
世界初の実用化
さらに特徴的なのは世界で初めて日本で承認され、初めて日本で実用化された点だ。欧州では承認を申請し、米国やベトナムでは申請を準備中という。
レプリコンワクチンは、もともとは米創薬ベンチャーが開発した。「Meiji Seika ファルマ」は2023年に同ワクチンの権利を保有する豪製薬と日本での供給、販売に関する契約を締結。国の新型コロナワクチンをはじめとした医薬品の研究や生産を促進する事業に採択されて補助金を活用し、国内での臨床研究や生産拠点の整備を進めてきた。
レプリコンワクチンが日本で迅速に実用化に至った背景には、国の政策があったと言える。
中山哲夫・北里大学特任教授(臨床ウイルス学)は、「ワクチンの選択肢が増えたこと、また国内でワクチンを生産できることは、安全保障上も重要」と述べる。
一方で「販売後に多くの人に使われることで、治験ではわからなかった副反応が出てくる可能性もある。長期的に安全性を見ていくことが必要だ。またmRNAが体内でどのくらいまで残存するのか、動物実験だけでなく人でも調べることが大切」と指摘する。
新型コロナワクチンの定期接種は65歳以上の高齢者と基礎疾患のある60~64歳の人が対象。使われるワクチンは、オミクロン株の「JN・1」に対応した5種類のワクチンがあり、接種を受ける人は医療機関が採用したワクチンを確認することで、希望の種類を受けることができる。【中村好見】