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毎日新聞2024/8/23 東京朝刊630文字
完成した当時の甲子園球場。4カ月半のスピード工事で完成。内野側上部を名物の鉄傘がおおっていた=1924年撮影
選手宣誓で「この先の100年もここ甲子園が聖地であり続けること」を夢に挙げた智弁和歌山の辻旭陽主将=阪神甲子園球場で2024年8月7日(代表撮影)
大正デモクラシーの時代。新聞や雑誌が部数を伸ばし、大衆文化が花開いた。映画やレコードが身近になり、野球や演劇、将棋、囲碁が人気を集めた。関東大震災後は新しい組織や施設が誕生した▲「春のセンバツ」に日本棋院、日本将棋連盟。いずれも今年100年を迎えたのは偶然ではない。1924年の干支(かんし)を名前に刻む甲子園球場も1日に100年を祝った▲今の高校野球に当たる中等野球の人気の高まりから、阪神電鉄が本場米国の球場をお手本に建設した。わずか4カ月半の突貫工事で夏の大会に間に合わせたという▲「僕たちには夢があります。この先の100年もここ甲子園が聖地であり続けること。そして僕たち球児の憧れの地であり続けることです」。智弁和歌山の辻旭陽(あさひ)主将の選手宣誓で始まった今年の夏の大会はきょう関東一と京都国際の決勝戦で幕を閉じる▲原点回帰したような大会。低反発バットで本塁打が減った。タイブレークなどでバントが決め手となり、僅差の試合も多かった。島根の大社のように公立校の活躍も目立った。決勝はどちらが勝っても初優勝になる▲「高校野球は二十世紀の偉大な発明かもしれない」。作詞家の阿久悠(あく・ゆう)さんは20世紀最後の大会の際、スポーツニッポン紙の連載「甲子園の詩(うた)」に書いた。「完成品が競いあう場でなく未完成品が未熟を超えて人々に夢や感動を与える」からだという。猛暑対策や選手の健康を優先した改革も求められる現代の高校野球。宣誓の夢が続く未来を願う。