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スポーツ選手だけじゃない!中高年にも起こりやすい半月板損傷の予防法
福島安紀・医療ライター
2025年2月28日
58歳の主婦、百合さん(仮名)は、近所の体育館で週1回、バドミントンを約10年続けてきた。ところが1カ月前、バドミントンを楽しんでいた最中に右膝が痛くなり、歩くのもつらくなった。すぐに冷やし、湿布を貼ったら翌日には少し腫れが引いたものの、膝が痛くて買い物や家事もままならないので整形外科を受診したところ、「半月板損傷」と診断された。「それほど激しく動いたわけでもないし、半月板損傷はスポーツ選手がするけがだと思っていたので、病名を聞いて驚きました」と語る。
膝関節のクッション機能が損なわれ曲げ伸ばしができなくなる人も
「半月板は、太ももの大腿(だいたい)骨と脛(すね)の骨の間にある組織で、関節軟骨と共に、膝にかかる衝撃を吸収するクッションの役割を果たしています。その一部が断裂して亀裂が入った状態が半月板損傷です。半月板の切れ目が引っかかったりして、百合さんのように膝の痛みや腫れが生じたり、膝の曲げ伸ばしがしにくくなったりします」
「図解・即解!基礎からわかる健康シリーズ 変形性ひざ関節症」(ベースボール・マガジン社)の著書がある膝の専門医で、JCHO東京山手メディカルセンター整形外科部長の田代俊之さんは、そう説明する。
膝の半月板は内側と外側に1枚ずつあり、内側は薄く外側が厚くなっている。内側半月板、外側半月板ともアルファベットのCのような形をしており、内側の方がやや大きく、関節を安定させる十字靱帯(じゅうじじんたい)がその間を通っている。
中高年では、半月板が加齢に伴い変性して、軽微な外傷を受けることで損傷する。膝の曲げ伸ばしができなくなったり歩けなくなったりすることもある。
中高年の半月板損傷は長年使いこんだ組織の劣化が要因
「20~30代くらいまではスポーツ中のけがが多いのですが、中高年の半月板損傷の大半は、加齢と共に半月板の組織が劣化して硬くなったために生じる断裂です。スポーツをしない人でも、長い年月をかけて日常の動作の中で半月板に大きな負担がかかっているために半月板損傷が生じることがあります」と田代さんは話す。
半月板は他の軟骨と同じようにX線では写らないので、損傷しているかどうかは磁気共鳴画像化装置(MRI)検査で確認する。百合さんの場合、右の内側半月板を横切るように小さな断裂が生じていた。損傷の仕方は人それぞれで、半月板の形に沿って縦方向に切れる縦断裂、損傷が広範囲でバケツの柄のように半月板が広がってしまうバケツ柄状断裂と呼ばれる状態になることもある。
断裂が軽微なときには、手術以外の方法で治療する保存療法が中心だ。保存療法には、テーピングやサポーターで半月板への負担を軽減する装具療法、炎症を抑える非ステロイド抗炎症薬、ヒアルロン酸注射などの薬物療法、運動療法があり、これらを組み合わせて治療するのが一般的だ。テーピングやサポーターは直接半月板に作用するわけではないが、半月板損傷によって不安定になった膝の安定性を高めたり、保温によって痛みを軽減したりする効果が期待できる。
田代俊之・JCHO東京山手メディカルセンター整形外科部長=本人提供加齢で劣化した半月板は手術で修復できないことも
保存療法で回復しないときや、損傷が著しいときには手術を検討する。手術には、断裂した部分を縫い合わせる半月板縫合術と、損傷した部分を切り取る半月板切除術の2種類あり、皮膚に開けた穴からカメラ(関節鏡)と器具を差し込む関節鏡手術を実施するのが一般的だ。
半月板には血流が良いところと悪いところがあり、外側の3分の1くらいの辺縁部分には血流がある。この部分が断裂した場合には半月板縫合術が選択されることが多い。一方、血流が乏しい部分に断裂が生じた場合には縫い合わせてもくっつかないので、切除術を選択する。
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ただ、半月板の劣化が進んでいる中高年に縫合術や切除術が適しているかどうかは、膝関節の専門医の間でも考え方に違いがあり、議論になっているという。そのため、田代さんは、こうアドバイスする。
「若い人の半月板損傷に対しては積極的に手術しますが、半月板が劣化していると縫合術をしてもくっつかないことが多いです。また、半月板の一部を切除してしまうと、膝関節にかかる力を吸収するクッションがなくなって軟骨がすり減り、変形性膝関節症に進行しやすくなるので、近年は、半月板はできるだけ残したほうがよいと考えられるようになってきているのです。手術を受けるかどうかは、膝関節の治療を専門とする医師によく相談して決めるようにしましょう」
なお、手術を選択せずに半月板を温存した場合には、損傷が軽微な人と同様、装具療法、薬物療法、運動療法を組み合わせて痛みの軽減を目指す。
変形性膝関節症への移行や膝痛の再発を防ぐ運動療法とは?
百合さんの場合は損傷が軽微だったので、ヒアルロン酸注射と非ステロイド抗炎症薬を用いて痛みを軽減したところ、2週間ほどで腫れや痛みが治まった。痛みがなくなってからは整形外科で教えてもらった体操を続けている。肥満気味であることも半月板損傷の原因と指摘されたので間食はやめ、適正体重を目指して減量にも挑戦中だ。
膝が痛いと外出を控えたり昼間も横になったりする人もいるが、安静にし過ぎると膝の可動域が狭くなり、膝が動かしにくくなることが多い。
「半月板損傷後は関節の軟骨がすり減って変形性膝関節症を発症しやすくなりますし、中高年の場合は、すでに膝の変形が始まっている人も少なくありません。変形性膝関節症と膝の痛みの再発をできるだけ防ぐには、ストレッチで膝を動かして可動域を改善し、膝関節を支える太ももの筋肉である大腿四頭筋を鍛えて、半月板や関節軟骨へかかる負担を軽減しましょう。痛みの出ない範囲で毎日続けることが大事です」と田代さんは強調する。
いすに浅く腰かけ、片方の脚を伸ばす。両手で太ももを押しながら伸ばしたほうの脚に向かって体を前に倒し、そのまま20秒キープ。太ももに手を添え、伸ばしていた脚を引き寄せゆっくり膝を曲げる。膝を胸に近づけるように引き寄せ、20秒キープ。10セット繰り返し、反対側の脚も同様に。
変形性膝関節症の予防や改善に運動療法が有効なのは、膝関節を支える大腿四頭筋などの筋力が高まり、膝への負担が軽減するからだ。大腿四頭筋の筋力がある人は、膝関節の軟骨がすり減って変形しても痛みが出にくい。
いすに浅く腰掛け、片脚の膝を伸ばしてかかとを床につける。太ももに力を入れ、背中と膝は伸ばしたまま足を床から10㎝持ち上げ、5秒キープ。かかとを床につけリラックス。10セット繰り返し、反対側の脚も同様に。サプリメントよりもたんぱく質やミネラル豊富な食材を
ところで、コンドロイチン、ヒアルロン酸、グルコサミンなどのサプリメントは効果があるのだろうか。
田代さんは「これらは膝の軟骨の成分ですが、現時点では、これらのサプリメントを摂取したからといって、膝の軟骨が増えるという科学的な証拠はありません。残念ながら、食品として取ったからといって、それがそのまま軟骨になるという単純なものではないのです。食事に関しては、豆類、大豆製品、魚、肉、卵など筋肉の材料となるたんぱく質とその吸収を助けるミネラルが含まれる野菜を積極的に取りましょう」と語り、こう続けた。
「百合さんのように半月板を損傷した人は、変形性膝関節症を発症しやすい状態です。一般的には、変形性膝関節症の治療は保存療法から始めますが、バドミントンなど膝に負担のかかるスポーツをまだまだ楽しみたいという場合には、早めに高位脛骨(けいこつ)骨切り術を検討することがあります。半月板損傷の延長線上に変形性膝関節症があるということを念頭に入れておくとよいでしょう」
「『ひざの内側に強い痛みが…』 ランナーは特に要注意! 大腿骨顆部骨壊死って何?」でも紹介したように、この手術は、膝関節の下にある脛(すね)の骨に切れ目を入れてそこに人工骨を挿入し、大腿骨と脛骨の角度を矯正して金属プレートで固定する。脚の変形を修正して膝関節への負荷を減らす手術法で、骨がしっかりついて日常生活に戻るまでに2~6カ月かかるものの、膝に負担がかかるスポーツや仕事に復帰できるのがメリットとされる。
「手術が必要な状態かどうかや受けるタイミングは、高位脛骨骨切り術を実施している医療機関で相談しましょう。運動療法や手術などで膝の痛みを軽減し、高齢になっても活動的な生活が送れる人が増えることを願っています」と田代さんは話す。
特記のない写真はゲッティ
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ふくしま・あき 1967年生まれ。90年立教大学法学部卒。医療系出版社、サンデー毎日専属記者を経てフリーランスに。医療・介護問題を中心に取材・執筆活動を行う。社会福祉士。著書に「がん、脳卒中、心臓病 三大病死亡 衝撃の地域格差」(中央公論新社、共著)、「病院がまるごとやさしくわかる本」(秀和システム)など。興味のあるテーマは、がん医療、当事者活動、医療費、認知症、心臓病、脳疾患。