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毎日新聞2024/9/7 東京朝刊851文字
歓迎式典で握手を交わすロシアのプーチン大統領(右)とモンゴルのフレルスフ大統領=ウランバートルで3日、スプートニク通信AP
国際法廷は世界の平和と安全を維持するためにある。その権威を失墜させるような大国指導者の振る舞いは許されない。
ロシアのプーチン大統領がモンゴルを訪問した。ウクライナ侵攻に伴う戦争犯罪の容疑で昨年3月に国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状が出されて以降、加盟国を訪れたのは初めてだ。
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モンゴル政府はプーチン氏を逮捕せず、フレルスフ大統領らが歓待した。ウクライナ外務省報道官は「モンゴルも戦争犯罪の責任を負うことになった」と非難した。
ICCは重大な犯罪を犯した個人を訴追・処罰する国際法廷で、124カ国・地域が加盟する。集団殺害、人道に対する罪、戦争犯罪、侵略の四つが対象だ。
容疑者の身柄を拘束する独自の組織を持たないため、加盟国の協力が不可欠となる。だが、米国や中国、ロシアといった大国は、自国民が訴追されれば国家主権が侵害されかねないなどとして加わっていない。
逮捕状が出ていた国家元首が加盟国を訪問したのは初めてではない。スーダンのバシル大統領(当時)が2015年に南アフリカを訪れたケースがある。元首が他国による訴追を免れるという国際慣習を根拠に逮捕されなかった。
しかし、ICCは元首であっても刑事責任からの免除は認められないと規定している。
モンゴルは1990年代に民主化されるまでソ連の強い影響下にあり、今もエネルギー輸入でロシアに大きく依存している。プーチン氏が逮捕されなかった背景には、こうした力関係があったのではないか。
プーチン氏は米欧に対抗するため、通算5期目に入った今年5月から首脳外交を活発化させている。今回のモンゴル訪問を通じ、逮捕状の効力に限界があることを示す思惑があったとみられる。
今後もプーチン氏が加盟国訪問を続ければ、ICCの威信は一段と損なわれる。そのような行動は断じて容認できない。
日本はICC分担金の最大の拠出国である。今春には赤根智子氏が日本人初の所長に就任した。「法の支配」を外交の柱に掲げる以上、ICCが機能するような国際環境づくりに尽力すべきだ。