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毎日新聞2024/12/28 15:00(最終更新 12/28 15:00)有料記事1925文字
採取されたマンガン団塊=日本財団提供
日本南方の深海底には、黒い玉砂利が一面に広がっているような光景が見られる場所がある。希少金属(レアメタル)を含む球体で、日本が「資源国」になれるポテンシャルを秘めると注目を集めるが、なぜこんな物が深海に転がっているのだろうか。
割ると出てくる「古代ザメの歯」
ニッケルやコバルトといったレアメタルは、電気自動車や太陽光・風力発電に使われる蓄電池の生産に不可欠で、世界で獲得競争が起きている。日本財団と東京大は2024年6月、そんなレアメタルが南鳥島沖の深海に豊富にあり、コバルトは何と日本の年間消費量の75年分も存在しているとみられると発表した。
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レアメタルを含むのは「マンガン団塊」と呼ばれる、直径数センチ~数十センチほどの球体だ。黒や黒褐色で、ボールやジャガイモのような見た目をしている。
「マンガン団塊のでき方はある程度だが、分かってきている」と東京大学の中村謙太郎教授(資源地質学)は言う。その主成分は、鉄とマンガンが海水中の酸素と結びついた酸化物だ。酸化物の結晶が薄く何層も付着し続け、木の年輪のように同心円状に大きくなると考えられている。
マンガン団塊ができるまで
マンガン団塊を割ると、中心から海底の小石やクジラの骨、そして絶滅した古代の巨大サメ「メガロドン」などのサメの歯が見つかる。それらを「核」にして、100万年に数ミリ程度という非常に遅いスピードで成長するという。小学校の理科の実験で、食塩やミョウバンの結晶を大きく成長させるイメージだ。
レアメタルは、金属成分を含む地殻の岩石の風化や熱水噴出孔からの熱水によって、海水中に供給されている。中村教授によると、ニッケルやコバルトはマンガンの結晶と相性が良く、時間をかけてマンガン団塊に取り込まれていく。
資源として脚光、各国が海洋調査
でも、なぜ海底の表面に転がるマンガン団塊は泥に埋もれていかないのか。深海の海流が泥を堆積(たいせき)させないという考えもあるが「いまだにはっきりしていない」と中村教授は言う。
マンガン団塊の存在が初めて明らかになったのは1873年だった。英国の海洋調査船「チャレンジャー号」に乗船した科学者が採泥器を使い、大西洋のカナリア諸島沖合から引き揚げた。資源として注目され始めたのは、約100年後の1960年代ごろ。ニッケルやコバルト、銅が含まれていると判明し、先進各国が海洋調査に乗り出した。
南鳥島の沖合の海底に密集するマンガン団塊=日本財団提供
日本も1970年代から金属鉱業事業団(現エネルギー・金属鉱物資源機構)がハワイ沖など太平洋海域で調査・研究を続けてきた。日本はレアメタルのほぼ全量を海外から輸入している。産出量がそもそも少ない中、政情不安や国家間の緊張などで供給が不安定になるリスクもあり、安定供給の確保は経済安全保障上でも喫緊の課題だ。
公海の海底鉱物資源は「人類の共同の財産」で、国連の国際海底機構(ISA)が管理している。特定の国や企業による商業開発は現在認められていないが、商業開発に向けて特定の海域で鉱物資源を独占的に探査できる権利(鉱区)をISAが与えている。
1日数千㌧引き上げる実証試験へ
これまで日本は、ハワイ南東沖の公海で、北海道とほぼ同じ面積となる7・5万平方キロについてマンガン団塊を探査できる鉱区を取得している。日本財団や中村教授らの研究グループはそれに加え、南鳥島沖の排他的経済水域(EEZ)内の海底に、豊富なマンガン団塊の鉱床があることを発見したのだった。
マンガン団塊の採取調査
日本財団の海野光行常務理事は「ハワイ沖と比べて、南鳥島沖のマンガン団塊は高密度で存在しているのが特徴だ。含有する金属成分の比率もハワイ沖と異なっていて、両方で採鉱ができれば日本にとって良い形になる」と指摘する。
日本財団が豪企業に依頼した分析によると、南鳥島沖有望海域の資源量はコバルト約62万トン、ニッケル約66万トン。特にコバルトの品質は、生産量世界1位のコンゴ民主共和国の鉱床と遜色ないことが判明し、その推計資源量は世界3位に上る。25年にも商業開発を目指した採鉱の実証試験を始める予定で、海野常務理事は「採鉱は環境への影響調査で問題がないことが前提だが、南鳥島沖が大きなポテンシャルを持っているのは間違いない」と強調する。
日本財団などの試算では、マンガン団塊を1日当たり1万トン、年間300万トン引き揚げることができれば、経済性のある開発ができるとみられる。実証試験では1日数千トンを引き揚げ、商業開発が成立するか見極める。
調査で採取されたマンガン団塊=日本財団提供
一方、中国はマンガン団塊を採鉱・精錬する技術を伸ばしており、南鳥島に近い公海の鉱区を取得、積極的に資源調査に乗り出している。日中両国の動きに今後、さらに注目が集まりそうだ。【露木陽介】