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毎日新聞2024/9/8 東京朝刊有料記事931文字
エンディング産業展で「僧侶のための見学ガイドツアー」を企画した薄井秀夫さん(中央)。僧侶だけでなく、お寺への「営業」を考えている関係者もツアーに参加、薄井さんの話に聴き入った=滝野隆浩撮影
<滝野隆浩の掃苔記(そうたいき)>
8月末に東京ビッグサイト(東京都江東区)で開催された「エンディング産業展」に行ってきた。葬送業界の動向を知るため毎年見てきたが、今年は「寺院デザイン」社の薄井秀夫代表が企画した「僧侶のためのエンディング産業展見学ガイドツアー」に参加することにした。お坊さんたちは何に関心を示しているのか。興味津々だった。
薄井さんは「寺の運営コンサル」をしている。放っておけばつぶれかねない寺の住職らに助言をし、立て直す仕事だ。6月に「葬式仏教―死者と対話する日本人」という本を出したばかり。仏教界と葬送業界、双方を熟知している。
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ツアーの出発前、葬送業界「盛衰史」の簡単な講義があった。時代によって業界は変化してきた。以前は霊園開発や葬祭会館建設の会社に勢いがあったが、今はない。現代風アレンジの仏壇の提案も少なくなった。白木の祭壇が生花祭壇に代わり、そのブームも落ち着いた。ここ数年は樹木葬関連の展示が幅をきかせている。新規参入が目立つのはIT関連企業だという。「葬送業界もDX(デジタルトランスフォーメーション)で変わっていきます!」。デジタル技術でいろんな顧客データを活用していくことのようだが、私には何のことやらわからない。
約20人のツアー参加者のあとについて回る。遺品整理の会社は最近増えた。不動産会社は土地売却だけでなく、相続から保険手続きまでワンストップで相談に乗るという。「相続診断士」という資格の普及を目指す会社の説明も聞いた。配られたチラシには基本的な30項目の質問が例示されていた。「親の面倒を『みている子ども』と『みていない子ども』がいる」「配偶者や子ども以外の人に財産を渡したい」など。これまで受けてきた「相続悩みごと」の事例を整理したものなのだろう。
そうか、ここは人の死によって発生するビジネスの展示会だった。以前は墓や葬儀に関する「製品やサービス」を競い合ったが、いまは1人暮らしが増え、「不安の解決」が注目されている。だとすれば、薄井さんのツアー企画意図も見えてくる。坊さんよ変われ、と言いたいのだ。社会の変化を感じ取れ、地域の人の悩みに真に向き合え。そうしないと、寺はつぶれるぞ、と。(専門編集委員)