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毎日新聞2024/9/11 東京朝刊有料記事1868文字
2号機の直下に活断層があると指摘された敦賀原発。左手前から1号機、2号機、新型転換炉「ふげん」=福井県敦賀市で7月26日、本社ヘリから加古信志撮影
原子力規制委員会は日本原子力発電敦賀原発2号機(福井県)の原子炉直下に活断層があることが否定できないとして、再稼働を認めず審査を終える「不許可」にする。審査を取材して驚いたのは、自然災害のリスクに向き合わない原電の姿だ。原電は2号機の廃炉を決断すべきだ。
5月31日の規制委の審査会合。この断層を巡る約9年に及んだ審査の最終盤だったが、とてもそうとは思えないやり取りが続いた。原電が、規制委側の質問にまともに答えられないのだ。
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誤記に書き換え質問に回答不能
例えば、断層の活動時期を決めるのに重要な、地層の堆積(たいせき)年代。原電は「最終間氷期の極大期」と資料に書いたが、その具体的な時期や根拠を問われると、原電は「詳細を示し切れていない」と答えた。別の用語についても、約20分間質疑を続けた末に明確に答えられず、原電は「記載の不手際」と釈明。規制委の担当者が「これ以上やっても仕方ない」と議論を切り上げた。
規制委の審査は、事業者が作った資料を基に議論を進めるのが通例だ。自らの資料すら満足に説明できない原電に、思わず目を疑った。
原電はこの日、過去の資料に新たな誤記があったことも報告した。2号機の審査では、これまでも資料の無断書き換えや大量の誤記が発覚し、2度中断している。審査会合を率いる規制委の石渡明委員は「反省というか、今の時点になってこういうものが出てくるのは残念」とあきれた。
こうしたやり取りは、過去の審査会合でも繰り返されてきた。原電の主張に対し、規制委は「科学的、技術的な根拠に基づく説明になっていない」「非常に恣意(しい)的に感じる」などと何度も苦言を呈している。規制委が、2号機を不許可にする結論を出したのは当然だろう。
背景にあるのは、原電の認識の甘さと、安全性に対する意識の欠如だと私は考える。こうした姿勢は数十年以上前から続いてきたことがうかがえる。2号機から約250メートルしか離れておらず、M(マグニチュード)7級の地震を起こすとされる活断層「浦底断層」は、1980年に学術界が指摘し、2004年には政府も公表したが、原電は08年まで否定を続けた。原子炉直下の活断層も、13年に規制委の有識者調査団が認定したが、原電はいまだに「活断層ではない」と否定し続ける。
原電は、不許可になっても、追加調査をした上で審査を再申請し、あくまで2号機の再稼働を目指す方針だ。しかし、原発が自然災害のリスクを軽視してはならないというのは、東京電力福島第1原発事故の最大の教訓だ。
敦賀原発の敷地内には約200本の断層(破砕帯)があり、浦底断層も走る。他に例のない厳しい条件のもとで2号機が審査を通過するのは並大抵のことではない。規制委の山中伸介委員長も「非常にたくさんの断層があるので、活動性を否定するのは大変困難」と指摘している。
再稼働に固執 原発「専業」ゆえ
それでも原電が再稼働を諦めないのは、「原発専業」という特殊性があるからだ。57年に大手電力などの出資で設立され、他社に先駆けて原発事業を手掛けてきたが、いまや保有する原発は、敦賀2号機と東海第2原発(茨城県)の2基だけだ。
福島事故以降、原発は規制委の審査を通過しないと再稼働できない仕組みが導入され、原電は発電量がゼロになった。2基の再稼働は生命線で、村松衛社長は「経営の両輪」と位置づける。一方で、原電は売電契約を結ぶ大手電力5社からの「基本料金」を受け取り、7年連続で黒字を達成している。
しかし、原電を取り巻く状況は厳しい。東海第2は、東日本大震災で被災した原発として初めて審査を通過したが、津波対策の要である防潮堤で施工不良が発覚し、工事をやり直す事態になっている。
原電は審査会合で、規制委から「(調査方法の)信頼性に確証がない」「造り直しが大前提」との指摘を受けた。原電が示した工事計画も、具体性はなく「実現性の見通しがまったく立っていない」と一蹴された。自然災害のリスクを過小評価する体質は、ここにも表れていると感じた。
私は3月まで東海第2がある茨城県で勤務していたが、東海第2は避難計画の策定にも問題を抱え、とても早期に再稼働できる状況ではない。
リスクに向き合えない事業者に原発を手掛ける資格があるとは思えない。原電が再稼働を目指しても、いたずらに時間を浪費するだけではないか。原電を支える「基本料金」は電気代などが原資で、時間をかければその分、消費者にもツケが回る。2号機だけでなく、原電自体の役割を見直すべきときだ。