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毎日新聞2024/9/27 東京朝刊有料記事992文字
元東京高裁部総括判事の山崎学さん=巽賢司撮影
審理長期化 反省必要 山崎学・元東京高裁部総括判事
想像を超えてかなり踏み込んだ判決だ。最大の争点となった「5点の衣類」の血痕の赤みについて、「残るかどうか分からない」という判断でも無罪を導けると考えていたが、判決は「残らない」とした上で、再審請求審では「可能性」にとどまっていた捜査機関による捏造(ねつぞう)を認めた。力の入った判断で、裁判官の意気込みが感じられる。ただ、ここまで踏み込む必要があったかどうかについては意見が分かれるだろう。
後付けにはなるが、確定審の1審判決も5点の衣類が見つかった経緯に触れ「物的証拠に関する捜査を怠った」と捜査機関を批判していた。当時から特異な発見経緯をより慎重に審理すべきだった。
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再審請求審では5点の衣類のDNA型鑑定や赤みを巡って主張が交わされ、審理が長期化した。裁判官が積極的に指揮して論点を絞り、専門家の人選や鑑定手法にも関与すれば、迅速な審理ができたかもしれない。
長期に及んだ再審請求審と再審で、検察の主張は退けられた。さらに審理しても結論が変わることは考えがたい。一人の人生を犠牲にしたことを法曹全体で反省すべきだ。【聞き手・三上健太郎】
元最高検次長検事の伊藤鉄男さん=安元久美子撮影
証拠を捏造 疑問残る 伊藤鉄男・元最高検次長検事
捜査機関が証拠を捏造したと認める判決には疑問が残る。
今回の最大の争点は、袴田さんが勤務するみそ製造会社のみそタンク内で事件発生から1年2カ月後に発見された「5点の衣類」をどう評価するかだった。判決は捜査機関が衣類に血痕を付着させ、みそタンク内に隠したと認定した。そうであれば捏造のために大がかりな工作をした人や、協力した人がいたことになるが、判決には具体的な時期や方法を根拠付ける明らかな証拠が示されていない。
衣類の血痕については1年以上みそ漬けされた場合には赤みが残らないと判断して無罪を導き出している。だが、当時のみそタンク内の環境がはっきりしなければ赤みが消えると断言するのは難しいのではないか。
検察は5点の衣類以外の間接事実も積み重ねて立証を尽くしてきた。当時の捜査が万全ではなく、袴田さんの身柄を半世紀近くも拘束することになった経緯については捜査機関は重く受け止めるべきだ。ただ、証拠の捏造が認められたことは納得できるものではない。検察は判決内容を精査し、控訴を含めて検討することになるだろう。【聞き手・安元久美子】