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毎日新聞2024/9/27 東京朝刊有料記事961文字
<kin-gon>
がんはもはや不治の病ではない。それでも悪性腫瘍が見つかると気落ちする。治療で体力や気力が衰えた時、他者の励ましが生きる勇気を与えてくれる。
米中西部オハイオ州オックスフォードに住むタミー・ウェイヘさんは5月、乳がんと診断された。母を含め親族に同じ病の女性が多かった。放射線治療に入ったのは8月である。ほとんど毎日、夫と一緒に車で通院した。
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その道すがら、ある家の庭に人の骸骨模型が展示されているのに気付いた。大小さまざまで、どれもユーモアたっぷりである。夫と一緒に笑い合い、関心をがん以外に向けられた。
「純粋に楽しかったんです。知らない人たちとつながっているように思えました」
ウェイヘさんは感謝の気持ちを伝えたかった。9月10日に手紙をしたため、この家の郵便受けに入れた。
<これまで19日間、放射線治療のため毎日、あなたの家の前を通り、どんな骸骨が加わり、何をしているかを確認してきました>
<ありがたいことに11日の水曜日が最後の治療になります。気を紛らわせてくれてありがとう。タミーより>
庭に模型を展示していたのはビル・パイルズさんである。手書きの文章からは、骸骨に救われる様子がストレートに伝わってきた。手紙を家族に見せると、こう言われた。「さあ、もっとやることがあるわよ」
ウェイヘさんの最後の治療日は翌日である。パイルズさんは妻と3人の子どもと一緒に午後3時半から9時まで、骸骨模型の新たな展示を作った。看板にはこんなメッセージも書いた。「あなたならできる」「よくやった、タミー」「絶対諦めないで」
治療を終えて帰宅するウェイヘさんが激励のメッセージに気づいた。思わず涙がこぼれた。米メディアにこう語っている。「見ず知らずの人が、(治療の)完走を祝ってくれたことに心を動かされました」
パイルズさん家族は毎年、ハロウィーン(10月31日)に合わせて2カ月ほど、模型を展示していた。地元の人に喜ばれたため昨年以降、普段から継続して骸骨にいろんな仕草をさせてきた。
他者に貢献したい。そんな気持ちが、がん治療に疲れたウェイヘさんの心を揺さぶった。パイルズさんは言う。
「人間は誰も一皮むけば骸骨です。人種や宗教に関係ありません。誰かを明るくしようと努力する。それが目標です」(論説委員)