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毎日新聞2024/9/28 東京朝刊有料記事1014文字
<do-ki>
100円玉を入れてレバーを回すと、卵形の半透明カプセルに入ったおもちゃが出てくるガチャ。正式名称はあっても、大げさな音とともに、何が出るか開けるまで分からないドキドキ感、それなりに精巧な中身の意外感から、もっぱらガチャの呼び名で人気だ。
9人が実質1カ月近く競った自民党総裁選は、まるでガチャだった。事実上の次期首相を選ぶのに、有効投票約70万人の党員・党友以外、圧倒的多数の国民はカプセルが出てくるのを待つだけ。選択肢は多いが、どれもあまり変わらないように見える。出てきたら、当分やり直しはきかない。
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格差の固定化を巡り、子供は親を選べないことを「親ガチャ」とヤユする流行語があった。それにならえば「総裁選ガチャ」。
取材すると、今回は議員たちまで「ガチャ気分」だったらしい。それでは困るが、どうしてそうなのかは考える必要がある。
当初は「刷新感」がテーマだったが、盛り上がらない。仕込まれたカプセルは「初の女性総裁」「40代へ若返り」が各2個。何とも安直で、ツボを外している。
次は「選挙の顔」。よりどころは世論調査の人気順位だったが、小泉進次郎氏がみるみる評価を下げた。中高年の多い党員には若さが頼りなく見えたようだ。
その感覚に異存はないが、政治記者の目には、小泉氏に代わって急浮上した高市早苗氏と、世論人気を守った石破茂氏の二人も、ずいぶん危なっかしく映る。
石破氏は中央省庁の地方移転、金融所得課税強化、アジア版集団安全保障体制創設など多くの独自政策を掲げるが、どれもハードルが高い。総裁選での議論は不十分だった。未熟さと夢物語との選択は、まさにガチャ。
高市氏は政策通を自負する。確かに原子力の話などは詳しいが、よく聞くと、選択的夫婦別姓でも財政赤字の認識でもかなり粗い発言が多く、ハラハラさせる。
何より議員や官僚、党職員ら二人をよく知るプロたちが、こぞって難色を示す事実は軽くない。
しかし、世論や一部党員の人気には、プロの見方への反発も加味されているから単純でない。
こうして議員たちも、よりましなカプセルが出るのを祈り「総裁選ガチャ」のレバーを回した。
票の割れ方が、党全体の迷いと自信喪失、元首相ら重鎮たちの定見のなさを映し出している。
総裁選終盤、ロシア・中国・北朝鮮の軍事行動が続き、安全保障環境の厳しさが強く意識された。国家の指導者選びが、ガチャでいいはずはない。(専門編集委員)