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毎日新聞2024/9/29 東京朝刊875文字
使用要件が一部緩和されることが決まった経口中絶薬「メフィーゴパック」のパッケージ=2023年6月30日撮影(画像の一部を加工しています)
人工妊娠中絶のための飲み薬が、入院せずに使えるようになる。女性にとって選択肢が増えるが、残された課題もある。
昨年4月に承認された経口中絶薬「メフィーゴパック」だ。9週までの妊娠初期に服用すると、24時間以内に中絶できるとされる。
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国内で承認されている緊急避妊薬の一つ。試験販売として、一部薬局では処方箋なしで購入できる=2017年12月6日撮影
これまでは、医療機関で服用した後、中絶が確認されるまで入院か院内待機を求められた。大量出血のリスクや、中絶に至らず手術が必要になる場合があることを考慮しての措置だった。
承認後、国の研究班が約400件の使用実績を調べたところ、母体に深刻な影響が出たとの報告はゼロだった。このため厚生労働省は運用を改め、自宅が近い人は服用後に帰宅できるようにすることを決めた。
緊急避妊薬の早期市販化を求める要望書を厚生労働省の担当者(左)に手渡す市民団体の代表ら=東京都千代田区で2023年6月23日、添島香苗撮影
入院が不要になれば、費用は手術より安くなると想定される。安全性に十分留意しつつ、女性の負担軽減になる運用が求められる。
経口中絶薬は既に世界70カ国以上で使われ、オンラインで処方を受けられる国もある。手術と比べると心身の負担は軽く、世界保健機関(WHO)も推奨している。
ただ、入院設備がない診療所での使用解禁は、今回見送られた。医療界から、学会による医師への講習の必要性などが指摘されたためだ。身近な医療機関で処方を受けられる体制整備を急いでほしい。
望まない妊娠を防ぐため性交後に服用する緊急避妊薬(アフターピル)も、普及は道半ばだ。
昨年11月から一部薬局で処方箋なしに購入できるようになったが、全面解禁に向けての試験的な販売のため、取り扱う薬局は全国145店舗にとどまる。
日本薬剤師会の調査では、試験販売で大きな問題は起きておらず、購入者の8割が今後も処方箋なしでの販売を希望していた。
緊急避妊薬は飲むタイミングが早いほど効果が高い。薬剤師の適切な助言が受けられる体制にした上で、販売店舗を増やすなど入手しやすい環境を整えるべきだ。
女性には、子どもを産むか産まないかを自分で決められる権利がある。「リプロダクティブヘルス・ライツ」(性と生殖に関する健康・権利)と呼ばれるものだ。それがより尊重される社会の実現に向けた一歩にしなければならない。