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毎日新聞2024/10/8 東京朝刊863文字
カルテの電子化に伴い、診療データの一部を患者自身がスマートフォンなどで見られるシステムも登場している=札幌市中央区の札幌医科大病院で2023年9月1日午後3時8分、谷口拓未撮影
電子カルテの普及を、医療の質と安全の向上につなげたい。国は大切な診療記録が失われないよう手立てを講じるべきだ。
カルテは医師法で保存期間が5年と定められている。だが、薬害や医療ミスでは長い期間を経て健康被害が明らかになるケースもある。その時にカルテがないと、実態の解明は難しくなる。
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電子カルテの導入前に起きた薬害肝炎の問題では、弁護士らが被害立証のため、病院が保管する過去の紙の診療記録を調べる作業が続いた=埼玉県三郷市で2017年3月27日午後2時半、清水健二撮影
約6000人が死傷した1995年の地下鉄サリン事件でも、後に研究者らが後遺症や救護活動を検証しようとした際、被害者のカルテがそろわず作業が難航した。
医療のデジタル化が進む中、医療機関の過半数、大病院の9割超が既に電子化した。大学病院では7割以上が保存期間を「永年」と決め、日本医師会も2016年に改訂した職業倫理指針で、診療記録は「電子媒体化に伴い永久保存とすべきだ」としている。
政府は30年までに規格を統一した電子カルテを全医療機関に広げる目標を掲げる。データを共有し、治療法の開発や副作用の迅速な把握に役立てるのが狙いだ。ただ、短期間で廃棄されては十分な成果は望めない。
電子カルテは保管に場所を取らないという利点がある。現行5年の保存義務は紙を想定した規定で、患者団体からは長期保存を求める声が高まっている。
血液製剤の投与記録は、カルテとは異なり20年の保存が義務付けられている。過去に薬害エイズなどが起きたためだ。
カルテについても長期保存を担保する仕組みが必要となる。個人情報の流出を防ぐサイバー対策への公的支援も検討すべきだ。
電子化されると、患者は自身の診療情報にアクセスしやすくなる。欧米では自由に閲覧する権利の保障が進む。医療への満足度が高まり、患者が指示通りに薬を飲むようになったとの報告もある。
日本でも群馬大病院が「患者参加型医療」を掲げ、19年から国立大病院で初めて入院患者が院内のパソコンでカルテを見られるようにした。年度内に退院後の外来患者にも広げる計画だ。
「カルテは医師と患者の共有財産」との認識が広がれば、信頼関係の構築にも寄与するだろう。デジタル技術を、より良い医療に生かす取り組みが求められる。