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毎日新聞2024/10/14 東京朝刊846文字
医師不足が深刻な岩手県では、出産を扱う医療機関が地域からなくなる問題も起きている。県立釜石病院の医師増員を求めて横断幕を掲げる市民ら=岩手県釜石市で2021年11月1日午前11時30分、安藤いく子撮影
医師が都市部に集中し、地方で深刻な不足が続く。偏在を是正するには、行政と医療界の踏み込んだ対応が必要だ。
人口が減る中でも、医師の数はここ20年で26万人から34万人に増えた。だが、医療ニーズも加味した人口当たりの医師数では、最多の東京都と最少の岩手県で1・9倍の差がある。
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過疎地を中心に医療機関の閉鎖や統合、規模縮小が相次ぐ。産婦人科医、麻酔科医、脳神経外科医らがゼロという地域も少なくない。働き方改革として今年度から強化された医師の残業規制も、人手不足に拍車をかけている。
国はこれまで、大学病院から過疎地への派遣や地方病院への財政支援などで、地域の医師確保に取り組んできた。2008年度からは大学医学部の定員に、卒業後の地方勤務を義務付けた「地域枠」を設け、若手医師の定着を図った。一定の効果はあったが、不足を補う決め手にはなっていない。
厚労省が検討する医師偏在対策
医師は基本的に就業地の制限がない。患者が多く、高収入が見込まれ、専門性の高い医療にも携われる都市部に集まりがちだ。
また近年は、厳しい勤務を避け、美容外科などへ若手が流れてしまう問題も指摘されている。
政府は今年の経済財政運営の指針となる「骨太の方針」に、医師偏在の是正を盛り込んだ。年末までに対策をまとめる。
地方の医師不足解消のため、慶応大は2026年度入試から医学部定員に1人分の「栃木県枠」を設ける。協定書を交わした金井隆典医学部長(右)と福田富一知事=県庁で2024年7月25日午前9時36分、有田浩子撮影
財務省は全国一律の診療報酬の見直しを提案している。医師が多い地域の単価を下げることで、都市部で働くメリットを減らすという。厚生労働省は診療所の開設を知事の許可制にしたり、地域ニーズの高い診療科の設置を要件としたりする考えを示す。
だが、医療界からは「憲法で保障された営業の自由が侵される」などの反発も出ている。実効性のある手立てを打ち出せるかどうかは見通せない。
地域医療は公共のインフラである。各都道府県がかかりつけ医から専門医まで診療科ごとの必要な人数を算出し、確保する仕組みを作ることが求められる。
従来の対策で十分な効果が上がらないのであれば、医師の就業場所や診療科の選択に、何らかの制約を課すことも検討すべきではないか。