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毎日新聞2024/10/14 東京朝刊有料記事995文字
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「整形外科」に行くことはあっても「形成外科」はなじみがない、違いもよく分からない、という人は多いかもしれない。
例えば、やけどやけがの痕を目立たなくする、生まれつきの欠損部分を修復する、食事を取りやすいように口や鼻の機能の回復を図る。こうした生活の質の向上を目指す治療が、形成外科だ。
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岩平佳子さんはベテラン形成外科医。大学病院勤務を経て、約20年前から東京都港区で乳がん手術後の乳房再建を専門にしたクリニックを開いている。これまでに1万人以上の胸をつくってきた、この分野の第一人者だ。
切除した乳房の再建は、しないと命に関わるわけではない。ただ、心理的な喪失感を改善するという報告があり、再建手術は保険適用されている。
岩平さんの元には、全国から患者がやって来る。下着に入れたパッドやタオルがずれて困る、我慢していた温泉に行きたい、孫と一緒にお風呂に入りたい……。理由はさまざまだ。
胸が戻って患者が涙を流して喜ぶのを見たり、結婚・出産したという知らせを聞いたりするのが、やりがいになる。一方で、切ない思い出もある。再建して温泉旅行を楽しんだ後、がんの転移で逝った女性は、19歳の若さだった。
がんの状態などにより、本人が期待した結果にならないこともある。「こんなはずじゃなかった」と後悔させないように、リスクを含めた丁寧な説明を心掛けている。「自分を育ててくれたのは、患者一人一人との関わり」と言う。
乳房再建をする人は、乳がん全摘手術を受けた人の約1割にとどまり、なかなか上がらない。地方では対応できる医師が少ない、主治医が多忙で再建手術について教えてもらえる機会が乏しい、といった背景が指摘される。
「結婚しているなら、必要ないでしょう」「年なんだから」などと、心ない言葉を投げつけられる人もいる。理解が進まない現状が、岩平さんにはもどかしい。
漫画の「ブラック・ジャック」が大好きだった。だから、患者の依頼でどこへでも出かけて手術した主人公のように、請われれば全国の病院に飛んで手術をしてきた。乳房再建に熱心ながん治療医がいた沖縄には数年通い、後進を育てた。
乳がんは9人に1人がかかる、女性にとって最も身近ながんだ。若い患者も多いが、生存率は高い。治療後も前を向いて長く生きていくための選択肢として、乳房再建が広まるといい。今月は乳がん月間。(専門記者)