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毎日新聞2024/10/17 東京朝刊有料記事998文字
日本被団協のノーベル平和賞受賞の一報を受け、「うそでしょ」とほおをつねる広島県原爆被害者団体協議会の箕牧智之理事長=広島市役所で2024年10月11日午後6時2分、安徳祐撮影
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日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)が今年のノーベル平和賞に選ばれた。1956年の結成以来、国内外で「ノーモア・ヒバクシャ」を訴え、核兵器の使用は、道徳的に容認できないとする「核のタブー」を確立したと高く評価された。
ただ、ノルウェーのノーベル賞委員会は、このタブーが現在、強い圧力にさらされているとも指摘、警鐘を鳴らした。
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ノーベル平和賞受賞が決まり、記者会見する日本原水爆被害者団体協議会の田中熙巳代表委員(中央)ら。田中さんは、石破茂首相が持論に掲げる米国との「核共有」を批判している=東京都千代田区で2024年10月12日午後5時35分、和田大典撮影
ロシアのプーチン大統領は2022年2月のウクライナ侵攻前後から、核兵器を脅しに使う言説を繰り返している。
現在、約500発の核兵器を保有する中国にも、30年には1000発へと倍増させる計画がある。米国も「核の3本柱」と位置づける大陸間弾道ミサイル(ICBM)などの更新に取り組んでいる。
核拡散防止条約(NPT)は、米露英仏中の5カ国に核兵器保有を認める一方、核軍縮交渉に誠実に取り組む義務を定めている。それがまったく機能していない。
米国が開発中のステルス戦略爆撃機「B21」。米国は、戦略爆撃機をはじめ、大陸間弾道ミサイル(ICBM)など「核の3本柱」の更新を急いでいる=米国防総省提供
日本でも、石破茂首相は米国との「核共有」が持論だ。米国の核兵器を日本国内に配備し、有事の際に自衛隊の戦闘機に搭載して使うことも念頭にあるはずだ。
首相は、現在の国際情勢を踏まえれば「現実的な手段」と説明する。だが、日本被団協の田中熙巳(てるみ)代表委員は記者会見で「論外。怒り心頭だ」と批判、石破首相に会って「あなたは間違っていると説得したい」と語気を強めた。
唯一の戦争被爆国が、新たなヒバクシャを生む。そうした構図に深く関わる暴挙は、ぜひとも止めなければいけない。
日本被団協のノーベル平和賞受賞決定から一夜が明け、原爆慰霊碑に祈りをささげる人たち=広島市中区で2024年10月12日午前5時50分、北村隆夫撮影
中東でも核のタブーが試されている。こちらは、核兵器の使用ではなく、核兵器の取得に関わるものだ。焦点はイランだ。
核兵器にも使える高濃縮ウランの製造を加速、タブーとされてきた核武装を目指す発言が、今年に入り相次ぐ。背景には、イスラエルとの緊張激化がある。
イランの最高指導者ハメネイ師は03年、核兵器の取得や保有を禁じる宗教令(ファトワ)を出した。それが歯止めとなっている。
理論上は、ファトワの変更は可能だが、核兵器を「イスラム法に反する」としている以上、そのハードルは高いとされる。
ただ、今月1日にイランから180発を超すミサイルで攻撃を受けたイスラエルが、イランの核施設を報復攻撃すれば、事態は大きく変わりかねない。
核のタブーは「人類の平和な未来の前提条件」。ノーベル賞委員会のメッセージを、しっかり受け止めたい。(専門編集委員)