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毎日新聞2024/10/18 東京朝刊有料記事994文字
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米国の大統領選挙は11月初旬と決まっている。その前月に起きる出来事は投票動向に決定的な影響を与える可能性があり、「オクトーバーサプライズ(10月の驚き)」と呼ばれる。
2016年には投票の11日前に、連邦捜査局(FBI)長官が民主党候補、クリントン氏の私用メールサーバーに関する捜査を再開すると発表し、「オクトーバーサプライズ」になった。
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この言葉が最初に使われたのは1980年の選挙である。再選を目指すカーター氏(民主党)にレーガン氏(共和党)が挑んだ。前年11月にイランの学生たちがテヘランの米国大使館を占拠し、館員たちを人質にしていた。
カーター政権は事件発生の5カ月後、救出作戦を実行するも失敗に終わった。そんな状況下、選挙戦が展開される。
カーター氏が人質を生還させれば、国民の支持を固められる。事件の行方が選挙結果に直結するのは間違いなかった。レーガン陣営の選挙対策本部長ケーシー氏は「オクトーバーサプライズ」という言葉で警戒感を表現した。
結局、事件は長引き、投票前に「サプライズ」は起きなかった。選挙ではレーガン氏が489人の選挙人を獲得し、49人にとどまった現職に圧勝する。人質が解放されたのは翌年1月20日。新大統領が就任した数時間後だった。
あまりに計ったようなタイミングである。そのため民主党側は考えた。レーガン陣営が人質解放を遅らせるよう画策したのではないかと。真相はやぶの中である。
あの選挙から44年が経過し、米国の政治がまた「人質」と「イラン」に揺れている。
パレスチナ自治区ガザ地区のイスラム組織ハマスが昨年10月、イスラエルを奇襲攻撃して市民を人質にとった。ハマスの後ろ盾イランとイスラエルは報復合戦を繰り広げている。
バイデン米政権はイスラエルのネタニヤフ首相に、イランの核関連施設を攻撃すべきではないと伝え、片や共和党のトランプ前大統領は攻撃すべきだとの認識を示唆している。
大統領選は接戦で、どんな「驚き」も結果に影響する。中東情勢が有権者の考えを変える可能性はある。ネタニヤフ氏とイランのハメネイ最高指導者はそれを知っている。誰が米国を率いれば、自分たちに有利かを考えるだろう。
ガザやレバノンでは連日の爆撃で、子どもたちが傷つき、泣き叫んでいる。その悲痛な声も政治指導者の思惑にかき消されそうな10月である。(論説委員)