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毎日新聞2024/10/17 東京夕刊有料記事907文字
1971年9月24日の毎日新聞に掲載された「現代を見つめよう」と題した公共広告
憂いを帯びたゴリラの表情のアップは強い印象を与える。
「さようなら、人類」
1971年9月24日の毎日新聞の全面広告。創刊100年を記念し、「現代を見つめよう」と題した公共広告のシリーズ第1弾だ。アートディレクターの細谷巌(がん)さんらによる広告は次の一文で始まる。「『森の王者』であった私たちゴリラも、絶滅は恐らく、もう時間の問題でしょう」
翌年、世界の知識人らで作るローマクラブが報告書「成長の限界」で地球の有限性を訴え、国連人間環境会議がストックホルムで開かれた。地球環境への危機意識が芽生え始めた時代だった。
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信濃毎日新聞に掲載された環境団体「POW JAPAN」の意見広告=田原和宏撮影
あれから半世紀余り。こちらも力のこもった広告だ。「雪がなくなったら、全員負け」
スノーボーダーらで作る環境団体「POW JAPAN」の気候危機を訴える意見広告が8日、北海道新聞と信濃毎日新聞に掲載された。この日、企業や自治体とまとめた気候・エネルギー政策を記した提言書を発表した。
提言には、日本の気候政策を「パリ協定」で定められた「1・5度目標」(産業革命前からの気温上昇を1・5度に抑制)に整合させること▽気候変動の影響を受けている人々の声を反映させること――の2点を盛り込んだ。
気候・エネルギー政策の提言をまとめた環境団体「POW JAPAN」のメンバーや賛同者ら=東京都内で2024年10月8日午前11時21分、田原和宏撮影
八方尾根やニセコといった各地のスキー場のほか、BURTONをはじめとするスノーブランドなど企業・団体149社、冬季のオリンピアンである渡部暁斗選手ら786人が賛同する(14日現在)。
事務局長の高田翔太郎さん(39)は「私たちの努力だけでは止められない。必要なのはシステムチェンジ」と訴える。「全員負け」との表現を使うかどうか、議論が分かれたというが、高田さんは「目に留まることが重要だから。ただ、最も伝えたいのはその後のメッセージ」と説明する。「このまま雪が降らなくなるのを、待つだけでいいのか」のくだりだ。
創設者の小松吾郎さん(48)は「再生可能エネルギーへの転換などできることがあるのに、やらなければ負けだと思う」と語る。
衆院選が公示されたが、気候政策が大きな争点となる気配はない。政治が無関心なのはメディアが伝えないからか、国民が声を上げないからか。もはや立ち止まっている時間はない。(専門記者)