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毎日新聞2024/10/20 東京朝刊858文字
スポンサーの契約締結後に記念撮影する(左から)2020年東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長、トヨタ自動車の豊田章男社長、国際オリンピック委員会のトーマス・バッハ会長、日本オリンピック委員会の竹田恒和会長(肩書はいずれも当時)=東京都内で2015年3月13日、浅妻博之撮影
オリンピック・パラリンピックの最高位スポンサーである日本企業がそろって撤退することになった。パナソニックホールディングス(HD)、ブリヂストン、トヨタ自動車の3社だ。
最高位スポンサーは、国際オリンピック委員会(IOC)との契約で五輪マークを国際的に商業利用できる。世界で16社を数えるが、日本の3社はいずれも今年末で満了となる契約の更新はしないと発表した。
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37年間に及んだ契約を打ち切るパナソニックHDは、経営環境や業態の変化を理由に挙げる。ブリヂストンは「モータースポーツ活動に注力する」と述べた。
トヨタの豊田章男会長は、選手のコンディションを軽視して真夏や夜遅くに競技を実施する大会運営に対し、「アスリートファーストなのか。こういう形でよいのか」と疑問を投げ掛けた。
東京オリンピック・パラリンピックの閉会式などで使われた大型プロジェクターの同型機(手前左)について語るパナソニックの関係者。手前右は2018年の韓国・平昌五輪の際に使われた機材の同型機=大阪府門真市で2021年9月3日、山田尚弘撮影
大会は、巨額の放映権料を支払う米放送局の事情を優先して競技日程が組まれている。五輪の商業化による弊害の一つだ。
「商業五輪」の始まりとされるのは1984年ロサンゼルス五輪だ。開催都市の税負担が問題だった時代に、民間資金のみで運営する手法を採用して成功を収めた。
原則「1業種1社」というスポンサー制度によって、同じ業界の企業を競わせて協賛金をつり上げた。今ではスポーツビジネスの常識となっている。
大会の肥大化に伴い、最近は再び巨額の税金もつぎ込まれるようになった。官民が巨大イベントの利益に群がる風潮は「祝賀資本主義」と呼ばれ、批判されている。
3年前の東京五輪では、国内のスポンサー選びを巡る汚職事件が起きた。広告代理店や協賛企業から逮捕者が出て、五輪のイメージは損なわれた。世論の風当たりは強く、札幌は冬季五輪の招致を断念せざるを得なかった。
二つの戦争が続く中、今夏のパリ五輪では「五輪休戦」の国連決議が無視され、平和の祭典としての理念もかすんだ。
日本企業の契約終了について、IOCは「各社のビジネス戦略に基づく決定だ」との見解を示す。だが求められるのは、撤退を五輪の現状に対する警鐘と受け止め、抜本的な改革につなげる姿勢だ。