|
毎日新聞2024/10/21 東京朝刊626文字
町工場発の製品開発に取り組む田城功揮さん(右)と梶田勘太さん=神奈川県平塚市で2024年9月、木村旬撮影
人手不足で倒産する中小企業が相次ぐ中、入社希望者が年間200人に達した町工場がある。神奈川県平塚市で10人余りの社員と汗を流すのは32歳の社長、田城功揮(たしろ・こうき)さんだ▲祖父が創業し、大手メーカーに精密機械などの部品を納めてきたが、家業を継いだ直後にコロナ禍で注文が激減した。危機感から思い立ったのは、下請けに甘んじず、独自製品を開発することだった▲だが設計できる社員がいるわけではない。そもそも何を作ればいいのか。手探りの中、苦境を脱する契機となったのは、田城さんが取り組んだ「町工場改革」だ▲当時は社員がすぐに辞めた。ハローワークで募っても集まらない。まず常態化していた残業をなくした。社員が働き続けるようになり、意欲も高まった。勉強会を開き、アイデアを出し合った。協力して作り上げたのが、コロナ下で流行したキャンプでよく使われるピザ窯のオリジナル製品だ▲肉も焼け、折り畳めば、厚さわずか1センチと片手で持ち運べる。長年培った金属加工技術を駆使し、試作も30回以上重ね、国内最大級の商品見本市で最高賞を受賞した。自社製品は10種類を超え、SNSで話題を呼んだ。急増した応募者から選ばれ、今春入社した梶田勘太さん(22)は「好きなものづくりで力を存分に発揮できる」と張り切る▲社員の名刺には「メタルクリエーター」の肩書が記されている。日本の製造業が創り出す付加価値の半分は中小企業が占める。「町工場に誇りを」。若い社長の願いを込めたものだ。