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毎日新聞2024/10/21 東京朝刊864文字
東京慈恵医大などが計画する異種移植の流れ
日本で初めてブタの組織をヒトに移植する臨床研究の計画が明らかになった。難病患者にとり光明となる医療だが、倫理上の問題も考慮する必要がある。
東京慈恵会医科大などが、腎臓が成長せず尿を作れない「ポッター症候群」の胎児を対象に実施する。体が小さいまま生まれてくることが多いため人工透析などの治療を受けられず、重症の場合は生き続けることが難しい。
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計画によると、生まれる4週間前の胎児に、ブタの胎児から取り出した、腎臓になる組織を注射器を使って移植する。生まれるときには腎臓に成長しており、生後は尿が作れるようになる。
2024年2月に日本で初めて誕生した、遺伝子が改変され異種移植用の臓器を持った子ブタ=ポル・メド・テック社提供
2~4週間後に透析が可能な体重になれば、ブタの腎臓は取り除かれる。透析を受けられるまでの「つなぎ」という位置づけだ。
動物の臓器や組織を使う医療は「異種移植」と呼ばれる。海外では、ブタやヒヒ、チンパンジーなどを用いて200例以上実施されている。ブタはヒトの成人の臓器と大きさや構造が似ており、利用が増えている。
しかし、長期間生存できた患者はこれまでいない。米国では最近、重い心臓病や腎臓病の成人患者にブタの臓器が移植されたが、いずれも約2カ月後に亡くなった。
人体内で長く使った際の影響は分かっておらず、継続的な観察が欠かせない。ブタの感染症がうつる危険性もある。無菌状態での飼育など、管理の徹底が求められる。
これまでは、種が異なることで生じる強い拒絶反応の克服が課題だった。米国では、反応が起きないよう遺伝子を改変したブタを使った。日本の計画は、まだ臓器になっていない組織を使うため反応は弱く、薬で制御できると想定されている。
そもそも動物の臓器などを人体に入れる治療に、抵抗感を持つ人もいる。「異物」の存在によって患者自身のアイデンティティーが揺らぐ恐れや、種の境界が曖昧になることへの懸念など、倫理的な問題を指摘する声もある。
ただ、新しい治療によって命を救える可能性が高まるのは確かだ。今後、大学や国などが研究の安全性や倫理的課題を審査する。患者や国民の理解を得られるよう、議論を尽くすことが肝要だ。