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毎日新聞2024/10/27 東京朝刊有料記事2244文字
<気になる>
これまでの先祖供養(せんぞくよう)のあり方を見直し、墓石(ぼせき)を撤去(てっきょ)して更地(さらち)にする「墓(はか)じまい」が増えています。一方で、墓じまいの費用(ひよう)などを巡(めぐ)ってトラブルになることもあります。墓じまいに踏(ふ)み切(き)る人が多いのはなぜなのか、円滑(えんかつ)に進めるためにはどのようなポイントに気をつけるべきなのでしょうか。
◆なぜ増えているの?
少子化・核家族化、継ぐ人減り
なるほドリ 最近、「墓じまい」という言葉をよく耳にするよ。
記者 墓から遺骨(いこつ)を取り出して墓石を片付け、更地に戻すことを指します。遺骨を、別の墓や納骨堂(のうこつどう)に移す場合は「改葬(かいそう)」といい、件数が増えています。厚生労働省(こうせいろうどうしょう)によると2022年度は過去最多の約15万件で、20年間で倍増したことになります。
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Q なぜ増えているの?
A 少子化(しょうしか)や核家族化(かくかぞくか)が進み、墓を継ぐ人が減っているからです。都市部(としぶ)への人口集中(じんこうしゅうちゅう)も進み、遠くにある墓を管理しきれなくなって墓じまいする人も少なくありません。
Q 高齢化(こうれいか)が進んでいるから、これから亡くなる人は増えそうだね。
A そうですね。高齢化に伴って死亡数が増える「多死社会(たししゃかい)」が急速(きゅうそく)に進んでいます。
厚労省の人口動態統計(じんこうどうたいとうけい)によると、23年の1年間に亡くなった人は過去最多の約158万人で、3年連続で増えています。40年にピークの約167万人に達し、70年まで150万人超の水準(すいじゅん)が続くと推計(すいけい)されています。鹿児島県(かごしまけん)の人口が約153万人なので、それに匹敵(ひってき)する人数が1年間に亡くなり続ける計算になります。
一方、出生数(しゅっしょうすう)は8年連続で減っており、23年は過去最少の約73万人。1人生まれても2人亡くなっており、人口減少が加速しています。そんな中で、墓を継ぐ人がいなくなるのは珍しいことではなくなっています。
Q 継ぐ人がいないとどうなるの?
A 管理する親族が誰もいない「無縁墓(むえんばか)」になります。雑草が伸び放題になり、ごみを捨てられるなどして墓地が荒れます。公営(こうえい)墓地では管理費の滞納(たいのう)が起き、親族捜(しんぞくさが)しに手間がかかるうえに墓石撤去にかかる費用は公費(こうひ)で負担(ふたん)しなければならず、社会問題(しゃかいもんだい)になっています。総務省(そうむしょう)が昨年9月に公表した初の全国調査の結果では、公営墓地を運営する765市町村の約6割に無縁墓があることが分かっています。寺や民間の墓地でも無縁墓は増えているとみられています。
Q 墓じまいをするにはどうすればいいの?
A 後でトラブルにならないようにするためにも、まずはできるだけ家族や親族と話し合い、事前に理解を得ておいた方がよいでしょう。また、お墓から取り出した遺骨の行き先を考えておく必要があります。
◆選択肢は何があるの?
合葬墓や樹木葬、散骨が人気
Q どんな選択肢(せんたくし)があるのかな。
A 人気なのは、他の人と一緒に入る「合葬墓(がっそうぼ)」や、墓石に代えて木を墓標(ぼひょう)とする「樹木葬(じゅもくそう)」、骨を砕(くだ)いて海などにまく「散骨(さんこつ)」といった、継承者(けいしょうしゃ)がいらないタイプの供養です。
合葬墓や樹木葬のような別の墓に遺骨を移す「改葬」の場合、現在お墓がある市区町村から「改葬許可」を得なければなりません。そのためには、今のお墓がある寺や霊園に改葬の意思を伝え、遺骨が埋葬(まいそう)されていることを証明する書類を書いてもらう必要があります。
Q 墓じまいの費用って、いくらくらいかかるものなの?
A 霊園・墓地の検索サイトを運営する「鎌倉新書(かまくらしんしょ)」(東京都)によると、墓石を撤去する費用は、1平方メートル当たり10万~15万円程度かかるそうです。墓が広いほど撤去費用は高くなります。
これとは別に遺骨の移転先によっては納骨や散骨に費用がかかります。鎌倉新書が今年1月、改葬・墓じまいを経験した256人にかかった費用を尋ねたところ、最も多かったのは「31万~70万円」(24・2%)、次いで「71万~110万円」(19・5%)でした。
Q 結構、お金がかかるんだね。トラブルもありそうだけど。
A 墓がお寺にある場合、墓じまいをするということは多くの場合、檀家(だんか)を離れることになります。寺にとっては、収入源(しゅうにゅうげん)を失うことにつながります。
国民生活(こくみんせいかつ)センターは、檀家を離れる際に寺から高額の「離檀(りだん)料」を請求されたという相談が相次いでいるとして、注意を呼びかけています。離檀料は法的な根拠があるものではなく、求めているのは一部の寺と見られています。
一方、寺院にある墓地の場合、寺の協力なしに墓じまいはできないのも事実です。寺側の事情も考慮(こうりょ)して、意思疎通(いしそつう)をうまくはかりながら進める必要があります。(デジタル報道グループ)<グラフィック・松本隆之>