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毎日新聞2024/10/29 東京朝刊609文字
米国では選挙をめぐる支持者の対立が深まっている。写真は連邦議会を襲撃するトランプ前大統領の支持者たち=2021年1月6日、AP
衆院選の結果を受けた記者会見で質問に答える石破茂首相=自民党本部で2024年10月28日午後2時17分、平田明浩撮影
「平等な選挙権と多数決の原則を組み合わせただけで利益を平等に配分できるわけではない。勝者総取りのシステムでは恒久的な少数派を生む可能性もある」。そう指摘したのは米政治学者、マンスブリッジ博士だ▲民主主義研究で知られる女性学者は話し合いや議論で最善の答えを見つける前に多数決で決着をつけようとする政治のあり方を「敵対的民主主義」と呼んだ。市民の利害が常に衝突していることを前提としているからだという▲約40年前の著作からの引用だが、今の米国の政治状況はまさに「敵対的」に映る。女性の中絶の権利や銃規制などをめぐって民主、共和両党の議論がすれ違う。大統領選で勝利すれば、価値観まで決定権を握ることにつながりかねない▲ともすれば日本でも「多数決が正義」の選挙万能主義がまかり通ってきた。1強体制ではなおさら「敵対的」な姿勢が目立った。自公過半数割れの衆院選は政治のあり方を再考する機会になりうる▲野党は裏金問題で国民からノーを突きつけられた自民党との連立協議に消極的だ。石破茂首相が続投しても少数与党の政権運営を迫られそうである。緊急課題の政治改革や予算編成も低姿勢で野党側の協力を仰ぐ必要がある。「敵対的」では立ち往生する▲異なる意見に耳を傾け、立場を修正していく議論は「熟議民主主義」と呼ばれる。中露など権威主義国の台頭で民主主義の危機が叫ばれる今こそ従来型の政治の見直しが求められている。「熟議」の国会論戦が見たい。