|
毎日新聞2024/10/29 東京朝刊有料記事1038文字
<ka-ron>
米大統領選の投開票が来週に迫った。トランプ前大統領が再任されれば、米国によるイスラエル支持はさらに拡大するだろう。
そもそも両国の「絆」はいつからなのか。ハリー・トルーマン米大統領が1948年5月のイスラエル建国を世界に先駆けて承認したことは有名だ。決断を促したのは、同じ米中西部ミズーリ州出身でユダヤ人の親友、エディー・ヤコブソン氏。第一次世界大戦からの戦友で、戦後は同州カンザスシティーの洋服店で共に働いていた。
Advertisement
その後トルーマン氏が大統領となり、イスラエル建国の時期が近づくと、ヤコブソン氏は彼の敬愛するユダヤ人宗教指導者に会ってほしいと頼むようになる。だが大統領は手紙で、「ユダヤ人は感情的だし、アラブ人は話すのが難しく、できることはほとんどない」などと拒み続けた。
ところがある日、心変わりする。いったい何があったのか。
個人的にずっと気になっていたことでもあり、調べるうちに2014年に地元の歴史協会ジャーナルに掲載された上下2本の連載記事にたどりついた。筆者は米ピュリツァー賞などを受賞した記者で、歴史研究家でもあるシャーリー・クリスチャンさん(86)。資料や証言を集めて書いた記事「ハリーとエディー 世界を変えた故郷の友情」によると、ヤコブソン氏は48年3月13日、説得のためにホワイトハウスを訪ねた。大統領の態度は変わらない。部屋をながめると、トルーマン氏と同じ民主党出身のアンドリュー・ジャクソン元大統領の小さな像があった。
「ハリー、君には一生涯のヒーローがいるよね。アンドリュー・ジャクソンについて君ほど読んでいる人はアメリカ中にもたぶんいないよ。そうなんだ、ハリー、僕にもヒーローがいるんだ」。その宗教指導者は「最も偉大なユダヤ人なんだ」と涙ながらに訴えた。
トルーマン氏は「指で机をトントンとたたき始め、それから椅子を回転させて窓の外にあるローズガーデンを見つめた」。ヤコブソン氏は「心変わりをし始めている」と直感したそうだ。やがて彼の方に向き直りこう言った。「お前の勝ちだ、このハゲ野郎。彼に会おう」。それは「彼の口から聞いた、最も愛情のこもった言葉だった」という。大統領はその宗教指導者と会い、建国支持を決断する。
地元ではよく知られたエピソードのようだ。大統領を動かしたのは数字でもデータでもなく「ヒーロー物語」だったということか。このやり取りがなければ、現在のような両国の関係は生まれていないのかもしれない。(専門記者)