|
毎日新聞2024/11/3 東京朝刊有料記事2217文字
<気になる>
インターネット上を中心に、うそだったり誤解を招いたりする情報や、フェイクニュースの拡散が深刻化しています。選挙の結果を左右しかねず、災害時の救助活動の妨(さまた)げになるなどの影響(えいきょう)や混乱が生じている中で、それらを防ぐ対策の鍵(かぎ)として期待が高まっているのが「ファクトチェック」です。だれが、どのようにチェックしているのか。今回はその仕組みを解説します。
◆いつごろからあるの?
00年代 米政治家の発言検証増
なるほドリ 米大統領選の候補者討論会をテレビ中継(ちゅうけい)で見ていたら、司会者が、発言内容が事実と異なると指摘(してき)していたね。
Advertisement
記者 こうした指摘が、まさにファクトチェックですね。社会に広がっている言説や情報の内容が事実(ファクト)に基づいているのか、正確なのかを調査し、検証した結果を発表することです。米デューク大が2024年5月に公表した集計によると、世界で439の機関が、それぞれのウェブサイトでチェックした結果を公表するなどの活動をしています。
Q いつ始まったの?
A 日本国内のファクトチェックを支援(しえん)・推進しているNPO「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)によると、都市伝説や迷信などを検証するサイトとして1994年に創設された米国の「スノープス」が、世界最初のファクトチェックサイトとして知られています。00年代には米国で政治家の発言などを検証する専門組織や報道機関が増え、欧州(おうしゅう)でも08年以降、報道機関による政治ファクトチェックチームを設立する動きが相次ぎ、世界各地に広がりました。
Q どういう人たちがやっているの?
A 世界各地の組織の連携(れんけい)団体「国際ファクトチェックネットワーク」(IFCN)によると、非営利団体が約半数を占(し)め、約4割は営利メディア、残りは学術機関などでした。日本では、インファクト▽リトマス▽日本ファクトチェックセンター(JFC)――の3団体がIFCNに認証された加盟組織として活動しているほか、新聞やテレビ局なども取り組んでいます。
Q どのような情報をチェックしているの?
A 人々(ひとびと)の関心が高く社会的(しゃかいてき)影響が大きいもの。たとえば偏見(へんけん)や混乱、対立を深めたり、特定の人物やグループの社会的評価を傷つけたりする恐(おそ)れのある情報を取りあげるのが一般的(いっぱんてき)です。影響力が大きい政治家の発言や政府の発表、メディアの報道の検証も重視されています。世界のファクトチェックの動向に詳(くわ)しい奥村信幸・武蔵大教授は「民主主義社会では正しい情報に基づいて物事を決めることが非常に大切であり、それを守るためにファクトチェックがある」と話しています。
◆調査報道とは違うの?
中立維持公開情報で検証
Q チェックのやり方は決まっているの?
A 公開されていたり、情報公開請求(せいきゅう)などで入手できたりする情報や文書など、客観的な証拠(しょうこ)に基づいて検証し、真実なのか、正確なのかを判定します。当事者や専門家に取材することもあります。結果を公表する際には、レーティングと呼ばれる基準に基づき「正確」「ミスリード」「根拠(こんきょ)不明」「虚偽(きょぎ)」などと判定結果を示して、真実性や正確性のレベルを分かりやすく伝えるようにしています。
Q ルールはあるの?
A IFCNは綱領(こうりょう)で、不偏不党(ふへんふとう)・公平性▽情報源の透明性(とうめいせい)▽財源と組織の透明性――など5大原則を掲(かか)げています。このため、記事の検証や判定は必ず複数の人で行っているほか、だれが執筆(しっぴつ)したのか署名を入れたり、情報源の資料を明示したりしています。
Q 大変な作業だね。
A JFCの古田大輔編集長によると、判定を巡(めぐ)り内部でも意見がまとまらないことがあり、公表に至らず「ボツ」にする記事も少なくないそうです。
Q 新聞やテレビが、不正を暴くために行っている調査報道とは何が違(ちが)うの?
A ファクトチェックは、客観的な事実に基づいて公正に検証することが目的で、特定の立場の人を守ったり、批判したりするものではありません。判定に用いる証拠も、第三者による再確認が可能な公開情報を使うのが原則です。一方で調査報道は、記者が匿名(とくめい)の情報源に確認したり、非公開の内部資料を入手したりして事実確認する場合が多く、取材過程を第三者が確認できないケースもあります。
ファクトチェックと調査報道の両方を行っている、インファクトの立岩陽一郎編集長は「調査報道は特定の問題追及(ついきゅう)が目的だから、記者の思想信条や報道機関の編集方針が反映されやすい。しかしファクトチェックは公平中立を維持(いじ)しなければならない」と話しています。党派間の対立と分断が進み、連動してメディアの報道内容への信頼(しんらい)も両極化する傾向(けいこう)は、米国に限らず先進国で広がりつつあります。だからこそ、純粋(じゅんすい)に事実かどうかを判定するファクトチェックのような取り組みが、さらに重要になりそうです。(社会部東京グループ)<グラフィック・大谷紬>
質問は〒100―8051毎日新聞「なるほドリ」係。QRコードでも募集しています