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毎日新聞2024/11/10 東京朝刊有料記事937文字
各国の法制と対比することで日本の墓地埋葬の課題を考える意欲作「日本と世界の墓地埋葬法制」(信山社)=滝野隆浩撮影
<滝野隆浩の掃苔記(そうたいき)>
8月に出た「日本と世界の墓地埋葬法制」(大石眞、片桐直人、田近肇編)は何ともベタな書名だ。学術書だからしかたない。ただ世界各国の制度と比較することで日本の新しい葬法について考える、実に意欲的な本なのである。
憲法学の大家である大石眞京都大名誉教授らのグループに、墓地埋葬法制研究の重鎮、森謙二・茨城キリスト教大名誉教授が加わった。この最強チームがイギリス、フランス、イタリア、ドイツ、オーストリアをカメラを片手に回った。各国の葬送事情を紹介する第1編には写真も多く載っている。フランスのシャンソン歌手、エディット・ピアフの花いっぱいの墓は大石先生が撮った。
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欧州各国にはそれぞれ歴史があり墓地制度も葬送事情も異なるが、「地方自治体が墓地を提供・埋葬義務を負う」ことは共通する。それは「生きている人間(社会)は亡くなった人たち(死者)を大切にすべし」と条文に示されているということなのだ。そのためだろう。総じて欧州の墓地は公園のようで美しい。大石先生はそのことを「死者に捧(ささ)げる都市計画」と呼んだ。
もちろん欧州には移民の流入で宗教的な対立も生まれ、葬法上の論争はある。さらに新しい葬法が次々と誕生。アルカリ性水溶液で遺体を溶かす「水葬」や、遺体を凍結後に超音波の振動で粉々にする「フリーズドライ葬」まである。大事なことはそれらの妥当性が、絶えず議論されていることだ。
ひるがえって日本はどうか。この本では第2編以降、諸外国と対比する形で日本の墓地制度の課題について検討。葬送の「個人化」が進む中での地方自治体の役割なども考察している。
欧州と異なり、日本には「埋葬義務」はない。そのうえ墓地埋葬法(1948年制定)は、90年代以降、法が想定していない散骨などの葬法が広がってきたにもかかわらず一度も改正されていない。国会、その他での議論も皆無といっていい。
何が求められるのか。簡単に答えが出るテーマではない。ただ大石先生は、序章でこう問いかける。「人間の尊厳と『死者の尊厳』とを結び付けるのは、われわれ生者の死者への想(おも)いであるが、墓地埋葬法制の基本となるべきものは、その想いをかたちにすることではないか」(専門編集委員)