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毎日新聞2024/11/13 東京朝刊610文字
ベルリンの壁崩壊35年を記念したコンサートの会場で夜空を彩る花火=2024年11月9日、AP
「103万円の壁」撤廃を求める国民民主党の玉木雄一郎代表(中央左)との会談に臨む石破茂首相(同右)=国会内で2024年11月11日、平田明浩撮影
冷戦終結の象徴になったベルリンの壁の崩壊から35年。東西ベルリンを隔てた28年間を上回る時間が過ぎた。先週末には夜空に花火が打ち上げられ、数万の市民が世界を変えた歴史的事件を祝った▲イデオロギーの壁も破れ、グローバリズムが広がったが、新たな障壁も生まれた。イスラエルがパレスチナに築いた分離壁。フィンランドはロシア国境にフェンスを張り巡らせた。復活を果たしたトランプ次期米大統領は1期目にメキシコ国境に築いた壁を増強する意向という▲障害者や高齢者が暮らしやすい社会には街にも心にもバリアフリーが求められる。一方でハッカーが横行し、ウイルスがはびこるネット世界ではファイアウオール(防火壁)が必須の時代でもある▲少数与党の石破茂内閣は「年収の壁」に直面する。手取りを増やすと公約し議席を伸ばした国民民主党は所得税の対象となる「103万円の壁」の撤廃を求める。だが、税収減を懸念する財務省や地方自治体は壁を守りたいのが本音のようだ▲「106万円の壁」はパート労働者らが厚生年金に加入する賃金の要件だ。厚生労働省が撤廃を検討しているという。加入者が増えれば、老後の年金給付も手厚くなるという建前だが、保険料を支払えば手取りは減る▲外部の脅威から身を守る防壁か。突き破らないと先に進めない障壁か。内にいるか外にいるかで評価が全く異なるのが壁の本質である。「年収の壁」の可否を判断するにも十分な情報公開と議論を前提にしてほしい。