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毎日新聞2024/11/14 東京朝刊850文字
取り出し装置でつかんだ燃料デブリ。福島第1原発事故から初めて取り出された=東京電力提供
東京電力福島第1原発の廃炉に向けた重要な一歩としなければならない。作業を着実に進めるとともに、廃炉工程の見直し議論を始めるべきではないか。
2011年3月の東日本大震災で炉心溶融(メルトダウン)を起こした2号機から、溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)が初めて取り出された。専門機関で分析し、本格的な取り出しに向けた工法の選定などに役立てるという。
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廃炉の「本丸」と位置づけられる作業だ。手を打たなければ、原子炉内の放射性物質が外部に漏れるリスクを抱えたままとなり、冷却に伴う汚染水の発生が続く。
しかし、課題は山積している。
今回取り出せたのは大きさ約5ミリ、重さ0・7グラムだ。1~3号機には、推計約880トンの燃料デブリがある。これだけでは炉内の状況を把握することは困難だ。
そもそも作業は当初予定より3年遅れている。高い放射線量に対応できる装置の開発が難航したためだ。
トラブルも続いた。装置を押し込むパイプの取り付け順序を間違える「初歩的ミス」が発覚した。その後も、稼働状況を確認するカメラに不具合が発生し、作業が中断した。
今後、線量が極めて高い炉内やその周辺での作業が増えれば、難度はさらに高まる。手順や体制を絶えず点検し、安全を最優先に確実に遂行する必要がある。
これまでの経緯を考えれば、ゴールへの道のりは遠く、廃炉工程の見直しも避けられない。
51年までの完了を目標に掲げた現在の工程が策定されたのは事故から9カ月後で、技術的な裏付けが乏しい段階のものだ。
通常の廃炉でも30~40年程度かかる。ましてや、事故のあった福島原発では、被ばく軽減のために作業時間が限られるなど制約が多い。地元自治体は、燃料デブリを含む放射性廃棄物を県外で処分するよう求めているが、具体的な議論は進んでいない。
廃炉は、福島の復興の未来像と密接に関わる。工程が「絵に描いた餅」になっては、古里を思う人々の不信は解消されない。
現状を丁寧に説明しながら、工程を不断に練り直していく。それが政府と東電の責務だ。