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毎日新聞2024/11/17 東京朝刊有料記事English version1732文字
=藤井達也撮影
米大統領選でのトランプ前大統領と共和党の大勝は、今後4年間、もしくはそれ以上の期間にわたって米国の国際的役割が大きく変化することを示している。2017~21年のトランプ前政権が、米国の世界的リーダーシップにとって例外だとはもはや言えなくなった。むしろバイデン政権の従来型リーダーシップ復活の方が異例で、トランプ氏が「ニューノーマル(新たな常態)」を定義していると言わざるを得ない。
それを認めたうえで、米国のリーダーシップ像や次の米大統領選以降の世界がどうなるのかは、依然として不透明だ。トランプ氏が米国の政府機関や司法制度に対して何を仕掛けるかは米国内では重要だが、内紛にならない限り、外交には直接影響しないだろう。
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トランプ新政権の外交姿勢で確かなのは、同盟国には対立的で、あらゆる国に対して交渉しようとし、「米国第一主義」の原則に基づくことだ。また、トランプ氏はしばしば急に意見を変えることが分かっている。しかし、それ以外では確実なことはほとんどない。
この不確実性の背景には、二つの理由がある。
一つは、選挙運動と政権運営の違いだ。選挙は説得し人気を求めるものだが、政権運営は選択が伴う。トランプ氏は有権者にうければ、矛盾した公約でも平然と口にしたが、政権運営では選択を避けられない。
二つ目は、米国が依然として世界最大の経済大国であり、グローバルな経済・安全保障上の利益とリスクを持つ点だ。この矛盾により、「米国第一主義」の実践は選挙戦で語られたほど容易ではない。1920~30年代の孤立主義への逆戻りを懸念する声もあるが、現実的には考えにくい。
トランプ氏の支持者であるイーロン・マスク氏の例を見ると、彼が経営する電気自動車(EV)大手テスラは世界中に工場を持ち、宇宙開発企業スペースXや同社の衛星通信サービス「スターリンク」も世界展開している。「米国第一主義」は意味がないばかりか、脅威となる可能性もある。
選挙公約で外交に最も関連する矛盾は、トランプ氏が北大西洋条約機構(NATO)やアジアの同盟国に防衛費増額などを求める一方で、日本や欧州からの輸入に高関税を課すと主張したことだ。そうなれば、同盟国は貢献が難しくなり、米国の防衛調達コストは上がることになる。
また、あらゆる手段で中国に対抗する「力による平和」を訴えてきたが、これはインド太平洋地域の同盟関係を弱体化させ、力を低下させる恐れもある。
米国の防衛産業は、現在の米軍の需要を満たす生産能力を持たず、日本や韓国を含む同盟国やパートナー国との共同生産に依存している。中国寄りにならないよう働きかけているインド、ベトナム、フィリピンなどの「戦略的パートナー」に高関税をかけるのは、最善策とは言えない。
こうした矛盾をどう解決するかによって、「米国第一主義」の真の意味が明らかになる。ロシアのウクライナ侵攻を和平交渉によって「終結」させるという公約も、中露の戦略的パートナーシップや北朝鮮の派兵も考慮しなければならない。貿易戦争と対中戦略を同時に考える必要がある。
日本の場合、在日米軍基地の重要性や日本の防衛強化が中国対策に重要な点を考えれば、妥協の余地があるかもしれない。だが、米国と密接な関係を持たない国々は、近年の主要新興国でつくるBRICSのような中国主導の枠組みの方が、賢明なリスクヘッジと見なすだろう。
トランプ次期政権が、対中競争において強硬姿勢で臨むことは間違いないが、その政策の有効性には矛盾が残る。台湾に対して支援の見返りを求めつつ、中国による台湾支配の扉を故意に開くことはしないはずだ。また、北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党総書記との対話の可能性もあるが、ロシアと共に戦う北朝鮮兵の存在が、その進展を阻む可能性もある。
トランプ氏の再選は、従来型の米国リーダーシップに終止符を打った。世界最大の経済力と軍事力、グローバルな利害関係を持つ米国は、今後もリーダーであり続ける。ただ、新しいリーダーシップがどこへ我々を導き、いつまで持続可能かは、まだ見通せない。【訳・国本愛】(原文はサイトThe Mainichiに)=毎週日曜日に掲載