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毎日新聞2026/2/13 06:00(最終更新 2/13 06:00)有料記事1495文字
漁具など大量のプラスチックごみが漂着した海岸=長崎県対馬市で2025年12月20日午後3時半、田中泰義撮影
国境の島、長崎県・対馬の海岸には、目を覆うばかりの光景が広がっていた。大きなもので直径1メートルほどもあるブイ、漁網の切れ端、ポリタンク、ペットボトル、洗剤容器……。無数の漂着プラスチックごみが浜を埋め尽くしていた。
白い地層の正体
島の西岸にあるクジカ浜で、対馬市SDGs戦略課の前田剛係長(46)は厚さ数センチの白い地層を指さした。砂の層ではない。細かく砕けた発泡スチロールが積み重なっているのだ。
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「『人新世』という時代を迎えたと実感します」
前田さんはため息交じりに言った。人新世とは、プラスチックごみや核実験による放射性降下物など、人類の痕跡が残る地質時代のこと。オゾンホールの研究でノーベル賞を受賞したパウル・クルッツェン氏らが2000年に提唱した。
多数のプラスチックが混入している地層=長崎県対馬市で2025年12月20日午後3時43分、田中泰義撮影
指さされた辺りを踏んでみた。ふかふかして、白く輝いている。その正体は紫外線や波風にさらされた微小なマイクロプラスチックだ。プラスチックごみは海岸から数十メートル奥の林まで地表を覆い尽くしていた。
前田さんがこれらの存在に気付いたのは22年ごろ。「今の現役世代は、後世の人から『とんでもない負の遺産を残した』と非難されるのではないか」と顔を曇らせる。
ホットスポット
クジカ浜を含め、対馬の海岸に漂着するごみの量は年間3万~4万立方メートルに及ぶ。25メートルプール約100杯分に相当する量だ。市のまとめによると、24年度に回収されたペットボトルを発生国別に分けると、中国が37%、韓国が27%、日本が5%。残りの出所は不明だが、形状などから多くは海外製とみられる。
海岸の数十メートル奥まで地表を覆うプラスチックごみ=長崎県対馬市で2025年12月20日午後3時48分、田中泰義撮影
経済協力開発機構(OECD)が25年7月に公表した報告書によれば、東南アジア諸国連合(ASEAN)=当時は10カ国=と中国、日本、韓国を合わせた計13カ国のプラスチック使用量は22年に計1億5200万トン。このうち、海洋など環境中に流出したプラスチックは計840万トンと推計され、世界全体の約3分の1を占める。
アジアでは人口増加や経済発展とともに廃棄物が急増している。一方で廃棄物管理が不十分なために、世界的にもプラスチック汚染が集中する「ホットスポット」になっているという。
いたちごっこ
対馬にこれほど大量のごみが漂着するのは、島の立地や地形的な特徴によるところが大きい。
長崎県対馬市
島は対馬海流が日本海へ流れ込む入り口に位置する。島の北端から韓国・釜山まで約50キロと目と鼻の先だ。島の海岸線915キロの大半はリアス式海岸になっていて、複雑な潮の流れを作り出す。結果、漂着ごみは一部の浜辺に集中する。
長年、海岸清掃に取り組む一般社団法人「対馬CAPPA」の末永通尚理事(54)は「漂着ごみが集中する海岸では何度回収しても再び流れ着く。いたちごっこです」と天を仰ぐ。
回収し続けないと島の観光にも悪影響が及ぶ。それだけではない。ごみが再び沖合へ漂流すれば、海洋生態系にも影響しかねない。しかし、急峻(きゅうしゅん)な地形が多いため重機を持ち込みにくい。回収できるのは年間約8000立方メートルと漂着量の約2割にとどまるという。
負担は住民に
対馬北端にある「韓国展望所」からの眺め。運が良ければ約50キロ先の韓国・釜山が見えるほど国境に近い。手前の島にある施設は航空自衛隊海栗島分屯基地=長崎県対馬市で2025年12月22日午後0時50分、田中泰義撮影
市は回収や埋め立て処分などに年約3億円の予算を投じている。うち9割は国から補助を受けているが、財政難の市には大きな痛手だ。市民の間でも「なぜ私たちが余計な負担を強いられるのか疑問だ」といった不満が根強い。
市未来環境部の三原立也部長(58)は「ボランティアの支援も得ながら対策を強化しているが、対馬だけの対応には限界がある。この現実を国内外に知ってもらい、人々の行動変容につなげていきたい」と話す。【田中泰義】