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毎日新聞2024/11/18 東京朝刊有料記事1018文字
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発熱や頭痛、長引くせきなどの症状が出る「マイコプラズマ肺炎」が流行中だ。ここ数年は下火だったが、今季は患者数が過去最多レベルで高止まりしている。
肺炎マイコプラズマという細菌が引き起こす。マクロライド系と呼ばれる抗菌薬(抗生物質)が使われるが、厄介なのは抗菌薬が効きにくい「薬剤耐性菌」があることだ。日本呼吸器学会などによると、アジアを中心に広がっており、マクロライド系薬を使って2~3日で解熱しなければ、別の抗菌薬を推奨しているという。
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薬剤耐性菌は恐ろしい。適切な対策を取らないと、将来の死者数は現在のがんを上回るとされる。
最近の国際チームの予測では、今後25年間の世界の死者は累計3900万人、関連死は1億6900万人に上るという。日本でも、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)など2種類の耐性菌により、年約8000人が命を落としている。社会の高齢化が進むほど、脅威はより高まる。
新たな抗菌薬が登場すると、それを追うように新たな耐性菌が生まれる。イタチごっこのような関係の中で、抗菌薬の開発は難しさを増している。
世界で対策が話し合われ、9月に国連総会の会合があった。そこで「年間495万人と推定される細菌の薬剤耐性に関連した死者数を、2030年までに10%削減する」という初の数値目標が合意された。国立国際医療研究センター病院の大曲貴夫さんは「数値目標ができたのは大きい。予算確保などの課題もあるが、歩みを進める意思が示された」と評価する。
薬剤耐性菌を増やさないために重要なのは、不必要に抗菌薬を使わないことだ。だが、日本人は「薬好き」と言われる。
東京大などのチームが診療所で風邪と診断された約97万人の受診データを分析したところ、18%の患者に抗菌薬が処方されていた。風邪の多くはウイルス性で、抗菌薬は使っても意味がない。
1人でたくさんの患者を診ている多忙な医師や、比較的高齢の医師ほど、抗菌薬を処方しやすいという特徴も見えてきた。チームの宮脇敦士さんは「こうした診療所を中心に働き掛ければ、適正使用が進むのでは」と提案する。
日本はコロナ禍で抗菌薬の販売量が減り、欧米も同じ傾向だった。衛生管理が徹底され、他の感染症自体が減った影響とみられる。
抗菌薬の使用を抑えれば、耐性菌という世界の脅威は一つ弱まる。手洗いやせきエチケットといった基本の感染対策には、そんな効果もある。(専門記者)