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毎日新聞2024/11/20 東京夕刊有料記事914文字
産経新聞のウェブ版にこんな話があった。要約する。
<日本の傷痍(しょうい)軍人会が1991年にオランダ・アムステルダムを訪れた際、エドアルド・ヴァン・ティン市長(記者注・34~2021年)が次のようなあいさつをした。「日本は『アジア各地で侵略戦争を起こして申し訳ない』と謝罪しているが間違いだ。あなた方こそ自らの血を流して東亜民族を解放し、救い出す、人類最高の良いことをした。本当は白人が悪いのです」(「現代を問う」16年2月23日配信)
これは一例だ。ネット上や一部書籍にはさまざまなバージョンの「市長の美談」が語られているが、出典がナゾなのだ。
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日本傷痍軍人会(日傷、13年解散)は戦傷者の団体だ。78年から98年ごろまで年1回、海外諸国に訪問団を送り、現地の傷痍軍人と交流し、成果は月刊の機関紙「日傷」で報告された。だが、産経が記す91年に日傷訪問団が訪れたのはオーストラリアとニュージーランドで、オランダに行った記録はない。
いや、日傷がオランダを訪れたことはある。85年11月のことだ。アムステルダムでオランダ傷痍軍人会と交歓した。「日傷」85年12月号に詳細があるが、記事にも参加者が記した感想にも市長や「美談」は登場せず、「オランダの元軍人の対日感情は厳しい」と記されている。その自国の傷痍軍人の前で、市長が「白人が悪い」と述べた、ということになる。
その後も日傷側の記録に「美談」はないが、10年近くを経て、右派団体「日本会議」の前身組織「日本を守る国民会議」が出した冊子「アジアと日本の大東亜戦争」(94年6月、非売品。日傷のオランダ訪問は「85年」)に現れる。その前年、93年10月に台湾籍の元日本兵が非売品で出した私家版の冊子「嗚呼大東亜戦争」(こちらは「91年」。のち94年6月に書籍として販売)にもあるが、どちらも出典が記されていない。
今や関係者の多くは故人である。オランダ側に問い合わせるのは最後にしたい。あるいは日本の信用にも関わる。出典などをご存じの方は、ご一報を賜りたい。