|
毎日新聞2024/11/22 東京朝刊850文字
米大統領選に勝利したドナルド・トランプ氏(右)と談笑する米起業家のイーロン・マスク氏。大口献金者でもあるマスク氏はトランプ次期政権の人工知能(AI)政策にも大きな影響を及ぼしそうだ=米東部ペンシルベニア州バトラーで5日、AP
人工知能(AI)の進化がもたらす負の側面が顕在化する中、安全な活用を探る世界的な取り組みが後退しないか。不安が募る。
来年1月に米大統領に就任するトランプ氏が開発一辺倒の姿勢を示している。中国などとの競争を制し、米国優位を確立するのが狙いという。
Advertisement
開発規制に関わるバイデン政権の大統領令を破棄すると表明している。安全保障やプライバシー保護などの観点から、開発企業に政府との情報共有と自主的な安全指針の策定を求めたものだ。トランプ氏は「技術革新を妨げる」と批判している。
SNSでは、生成AIで作られた偽情報が横行し、民主主義や人権を脅かしている。報道機関が配信した写真や記事を基に精巧に加工されたフェイクニュースは見破るのが難しい。選挙での世論操作にも悪用されている。
トランプ氏は大統領選期間中、米人気歌手、テイラー・スウィフトさんが支持しているかのように見せかけたSNS上の偽画像を拡散し、批判された。
にもかかわらず、ネット空間の健全性の確保に配慮せず、悪質な投稿を削除するSNS事業者の対応について「言論の自由を奪う検閲だ」と決めつけている。
背景には、大口献金者の米起業家、イーロン・マスク氏の存在がある。「規制は悪」が持論で、買収した短文投稿サイト、X(ツイッター)では、虚偽やヘイト発信への監視機能を大幅に緩めた。
傘下にAI開発企業も抱える。トランプ次期政権では予算や規制の削減を助言する新組織を主導する予定で、営利優先で政策がゆがめられる恐れがある。
AIの利用と安全をいかに両立させるかが問われている。
欧州連合(EU)は差別やプライバシー侵害など危険性の高い分野を中心に利用禁止を含む包括的な規制を策定した。日本も法整備の検討に乗り出した。
国連は、人間の指示なしにAIが敵を攻撃する自律型致死兵器システム(LAWS)の開発を禁じる国際ルール作りを求めている。
AI開発を主導してきた米国が安全への取り組みに背を向ければ、世界の未来が危うくなる。「自国第一主義」は許されない。