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毎日新聞2024/11/23 東京朝刊有料記事1946文字
ブラジル・リオデジャネイロでのG20首脳会議後、首都ブラジリアを訪問し、ルラ大統領(右)と会談した中国の習近平国家主席=20日、AP
南米チリ、アルゼンチン、ボリビアの国境地帯は「リチウム・トライアングル」と呼ばれ、世界の埋蔵量の6割近くを占めるといわれてきた。
ここに新たなキープレーヤーとして登場したのがペルーだ。6年前、ボリビア国境近くで世界最大といわれる鉱山が見つかり、世界有数の資源への期待が高まっている。
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そこで今月開かれたのがアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議。電気自動車(EV)や蓄電池に不可欠なリチウム利用で世界をリードする中国の習近平国家主席は会議に先駆けてペルーを公式訪問した。
習氏はペルーのボルアルテ大統領と共に中国海運大手が出資するチャンカイ港の開港式にオンラインで参加。経済圏構想「一帯一路」の一環として中国と中南米を結ぶ新たな回廊が築かれると祝った。
第1期の投資額が約2000億円の大型プロジェクト。ボルアルテ氏も「わが国の産品を効率的にアジア市場へ輸送し、雇用を生みペルー経済を活性化させる」と高い期待を示した。
中国がリチウムの調達先として期待をかけていることは間違いない。一方、脱中国のサプライチェーン構築を進める米国もペルーの鉱物資源に強い関心を示している。
いわば資源をめぐる米中対立の最前線で奇妙な光景が出現した。APEC首脳会議の集合写真。習氏は議長のボルアルテ氏の隣の前列中央に立ったが、バイデン米大統領は後列の端、タイとベトナムの間に入ったのだ。
アルファベット順とされたが、米保守系メディアは「レームダックが屈辱を受けた」と皮肉り、「トランプ氏(米次期大統領)なら習氏とともに中央に並んでいただろう」という共和党議員の声を伝えた。
◇ ◇
習氏はペルーに続き、ブラジルでの主要20カ国・地域(G20)首脳会議に出席し、会議終了後、ブラジルを公式訪問した。歴訪で明確になったのはトランプ第2次政権に備え、欧州や周辺諸国、グローバルサウスとの連携、関係改善を目指す外交戦略だ。
リマでの石破茂首相との会談では「中日関係は改善と発展の重要な時期にある」との認識を示し、直後に具体的なサインを送った。
8月に中国軍機が日本領空を初めて侵犯した問題で日本側に「気流の妨害」で「不可抗力により日本の領空に短時間入った。領空に入る意図はなかった」と伝え「再発防止への努力」を表明したのだ。
時間がたったとはいえ、ミスを認めたがらない中国軍が侵犯を認めたこと自体、対日関係改善に向けた習指導部の意思の表れといえるだろう。
習氏は一連の会議の間、マクロン仏大統領やショルツ独首相ら欧州首脳とも会談。また、中国企業が進出し、米国が迂回(うかい)輸出の拠点として警戒するメキシコのシェインバウム大統領や熱心なトランプ支持者として知られるアルゼンチンのミレイ大統領とも会談し、協調の道を探った。
ラオスでは習氏の南米歴訪に合わせるように中国とインドの国防相会談が行われた。10月に中印国境地帯の係争地でのパトロール方法に関する取り決めで合意後初の会談では相互信頼の再構築を進めることで一致した。
◇ ◇
「中国は常にグローバルサウスの一員であり、発展途上国の信頼できる長期的なパートナーだ」。習氏はG20首脳会議の演説で強調した。中国を発展途上国の枠を超えた経済大国とみなす欧米や日本など「北側」に対抗し、「南側」としての共通の立場を訴える狙いが色濃かった。
ブラジルのルラ大統領が提唱した貧困・飢餓対策を加速させる国際枠組み「グローバルアライアンス」(世界同盟)にも積極的に参画する方針を示した。
習氏はG20閉幕後、ブラジリアでルラ氏と会談し、両国関係を「グローバル戦略パートナーシップ」から「運命共同体」に格上げした。またブラジルの開発戦略と一帯一路の連携でも合意した。
だが、思惑どおりではない。当初は一帯一路へのブラジルの参加が予定されていたが、米国からそのリスクを再評価するように求められたブラジルが対米関係を考えて連携にとどめたといわれる。
トランプ氏が選挙中の公約どおり中国製品に60%の高関税をかけた場合、中国経済がこれまでのような成長を続けられるのか。米国市場を失った中国製品が世界にあふれることにならないか。各国もまた「トランプ2・0」に備えつつ、中国リスクを再評価しようとしているのだ。
中国にとって望ましいのは国内消費の回復を急ぎ、外需に頼らずに発展できる道を見つけることだろう。しかし、国内では停滞する経済や閉塞(へいそく)状況に絶望して社会に報復するような無差別殺傷事件が頻発している。「内政と外交は一体不可分」と考えれば、習氏にとってむしろ内政に注力することが対外的な影響力を保つ道なのかもしれない。(第4土曜日掲載)