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毎日新聞2024/11/25 東京朝刊有料記事981文字
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20年も前だが、先輩記者に「取材して」と渡された写真に驚いた。浜辺のヤドカリが、貝殻の代わりにプラスチック容器のキャップを背負っている。環境団体の人が沖縄の離島で撮影したという。
野生生物がレジ袋をのみ込んだり、体に漁網の一部が絡まったまま泳いでいたりといったニュースは、社会の関心を集めやすい。海岸に押し寄せるペットボトルなどのごみも、被害が目に見える。でも、さらに深刻な問題は、ひそかに進行している。
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米国の市民科学者、チャールズ・モアさんはヨットで北太平洋を横断中、何かが点々と浮遊している一帯を見つけた。正体は小さなプラスチック片。網でさらって調べると、5ミリ以下の破片の総重量はプランクトンの約6倍あった。2001年に発表すると、反響を呼んだ。
いわゆる「マイクロプラスチック」だ。プラごみは紫外線や波の力で劣化して小さくなる。海流や風で世界の海へ広がっても、分解されずに環境中に残る。
この帯は面積が日本国土の4倍以上といわれ、「太平洋ごみベルト」と呼ばれる。
その後、大西洋やインド洋でも、マイクロプラスチックがたまっている場所が見つかった。そして、クジラ、海鳥、魚などの胃の中や、貝からも出てきた。
最近の研究では、微小なプラ片が排出されず人の血管や肺、肝臓などに残る例が報告されている。
プラスチックには長持ちさせるための添加剤が含まれ、その中には国際的な規制対象になっている有害物質もある。東京農工大の高田秀重さんらは、そうした物質が世界各地の海鳥の脂肪に蓄積されていることを突き止めた。
人体に取り込まれた場合の健康影響は不明な点が多い。一つずつ調べるのは時間がかかり過ぎるとして、高田さんは毒性が低い添加剤への転換など予防的な対策を訴えている。
世界のプラスチックの生産量は年4億トンを超え、推計約2000万トンが海や川などに流れ出す。「50年には海のプラごみの量が魚の量を超える」との試算もある。廃棄物の管理徹底は大切だが、その前段階の、生産や使い捨てを減らす対策も欠かせない。
対策の条約づくりに向けた大詰めの国際会合が25日、韓国・釜山で始まる。今年度で定年退職を迎える高田さんも現地に行く。各国間で意見の隔たりが大きい「生産削減の合意」を求める科学者連合のメンバーとして、議論を見届ける予定だ。(専門記者)