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毎日新聞2026/4/18 08:00(最終更新 4/18 08:00)有料記事2867文字
太平洋に浮かぶ日本最東端の島・南鳥島=航空自衛隊C130輸送機から、鈴木泰広撮影
遠い無人島に埋めたら済むなんて、子どもに説明できるのか。違和感が拭えない日本最東端・南鳥島での「核のごみ」最終処分計画である。提唱者の一人とされるのが、元京都大学長(総長)で地震学者の尾池和夫さん(85)だ。「元京大総長のお墨付き」ですか? 本人に問うと、意外な答えが返ってきた。
「国策の露払い」に違和感
13日、南鳥島を抱える東京都小笠原村の渋谷正昭村長が国の方針を事実上容認する意向を示し、計画が進み始めた。原発から出る高レベル放射性廃棄物の最終処分地の選定で、国側が3段階ある手続きの1段階目「文献調査」を申し入れていた。
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核ごみの処分は長年の懸案である。特に最終処分場は「究極の迷惑施設」とも呼ばれ、候補地の選定すら容易ではない。文献調査の実施は北海道の寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村、佐賀県玄海町に続いて4カ所目。だが、国の主導で申し入れた例は今回が初めてだ。それだけに関係者からは本命視する声も聞かれる。
南鳥島に白羽の矢が立ったのは「地質的に安定」とされているからだ。核ごみは放射線量が安全なレベルに下がるまで約10万年間保管する必要がある。地震や火山活動の影響で漏れ出すようでは話にならない。
高レベル放射性廃棄物の最終処分場選定を巡り、東京都小笠原村の南鳥島での文献調査実施の申し入れを発表した赤沢亮正経済産業相=国会内で2026年3月3日午前8時35分、中島昭浩撮影
南鳥島案は先月、赤沢亮正経済産業相が方針を示し、急浮上した。突然出てきた印象を受けるが、以前から提唱している科学者はいた。中でも2020年に旧帝国大の同窓組織・学士会の会報で核ごみを「南鳥島に格納する」私案を記し、旗を振ったのが尾池さんである。
<この島は白亜紀から新生代初期の火山活動で生まれたが、マグマ活動は完全に終わっている。世界で最も安定した海洋プレート上にある日本の国土である。(中略)大地の安定という条件から見て、変動帯に生まれた日本列島を国土とする日本にとって、唯一の期待できる選択であることはまちがいない>
尾池さんといえば、日本地震学会のトップや東京電力福島第1原発事故の「政府事故調」委員も務めた反原発派の地震学者だ。愛称は地震に縁の深い「ナマズ」。03~08年の京大総長時代は活動家の学生たちと対話姿勢を示し、「ナマズ総長」として人気が高かった。
当時から知る私は「国策の露払い」にも見える旗振りに違和感を覚えていた。一体どういうわけなのか。
ようやく明かした腹の内
インタビューに答える尾池和夫さん=猪飼健史撮
「最初はね、僕がやっている俳句誌にエッセーを書いたの。日本は世界一地震が多いけど、世界で最も安定したプレートにも領土を持っているよと。それを学士会会報に書き直したら、原子力関係者で食いつく人がいて広まっていったんやなあ」
俳人でもある尾池さん。久しぶりに会うと、飄々(ひょうひょう)とした口調で提案の経緯を語り始めた。
南鳥島案は、地質学者で東京大名誉教授の平朝彦さん(79)も長年提唱している。「そうそう、オリジナルは平さん。彼とは仕事で同席する機会が多く、議論の相手をしていたら自分でも考えるようになって。僕の文章で南鳥島案が広まったならそれは良いけど、書き方が下手やったね。誤解を招いた」。尾池さんはそう言って頭をかいた。
南鳥島は地震の多い日本列島から1800キロ近く離れ、北海道より東側に位置する。ほぼ三角形で、面積1・5平方キロの全域が国有地だ。防衛省や気象庁の職員らが駐在しているだけで一般住民はいない。
原子力発電環境整備機構(NUMO)によると、核ごみはガラスや金属の容器などで包み、地下300メートルより深い「安定した岩盤」に埋設する。処分場は地上施設が1~2平方キロ、地下は6~10平方キロの想定という。
赤井純治さん
計画を不安視する声もある。鉱物に詳しく「地学事典」の編者でもある新潟大名誉教授の赤井純治さん(78)は課題を列挙する。
「海底火山の上にサンゴ礁が形成されてできた南鳥島は、地下浅部の岩盤が石灰岩でもろく山体崩壊の恐れがある。地下水の浸水リスクもあり、こんな所に広大な地下施設を安全に造れるとは思えない。事故が起きれば、太平洋全体に放射性物質の汚染が広がってしまう」
こうした懸念をぶつけると、尾池さんは「うん、その通り」とうなずき、言葉を継いだ。
「サンゴの島なんやから浅い所はダメやで。5000メートル以上は掘らないと。硬い玄武岩が出てくると思うけど、それも調べなあかん。掘るのはかなりの技術が必要やけど、掘れるとしてもお金の問題が出てくるね」
解説はさらに続く。
「台風も来るし、津波はアラスカからもチリからも各地の地震で来る。島が浸食されていくから、沖ノ鳥島みたいに護岸工事して守らんとあかんやろね」
問題点を次々に挙げる尾池さん。あれ、提唱者ですよね?
中間報告書をまとめた政府の事故調査・検証委員会の会合=東京都千代田区の大手町合同庁舎第3号館1階講堂で2011年12月26日、奥山智己撮影
「伝えたかったのは、日本には世界一安定なプレートもあるよということ。でも、資料不足やから調査してみたらと」
「ナマズ節」でけむに巻かれそうだ。納得しかねていると、ようやく腹の内を明かした。
「つまりね、他の所は危ないから埋めたらあかんよと。変動帯の日本列島は巨大地震や火山噴火が起きるんやから論外や。南鳥島も今すぐ最終処分場を造れというわけじゃない。『お墨付き』なんて言うてへんよ」
「再稼働のアリバイ」指摘も
政府は核ごみを地下に「地層処分」すると決め、02年に処分地選定の公募を始めた。文献調査を受け入れた自治体には最大20億円が交付される。これまでも高知、鹿児島、長崎などで応募に向けた動きが起きては、住民らの反対で立ち消えになった。
一方、地層処分に対し、研究者ら約300人が連名で「日本に適地はない」との声明を3年前に出した。日本学術会議も12年、超長期の安全性と危険性への対処に「現時点での科学的知見の限界」があると指摘。地層処分を見直し、暫定保管と総量管理を柱とするよう提言した。
一つ一つガラスで固められ、日本原燃の施設で保管されている高レベル放射性廃棄物。この最終処分場の選定が問題となっている=青森県六ケ所村で2019年6月、荒木涼子撮影
「南鳥島も含め日本で地層処分は無理です。処分地選定が進んでいるように見せるのは、原発再稼働のためのアリバイ作りでは」と赤井さんは疑う。
その点、先に「反原発派」と紹介した尾池さんの姿勢も単純ではない。「原発は人類が反省すべき無用なもの」と断言しつつ、「トリウム炉など次世代炉の開発はやったらいい」と言うのだ。
「僕の案はウランの輸入をやめて、今たまっているプルトニウムを始末するの。トリウムと一緒に燃やせば核兵器の材料がなくなる。廃炉のために原子力人材の育成も必要やね」
なかなか食えない先生に尋ねてみた。遠い無人島に埋めたら解決という発想自体、モラルハザード(倫理欠如)では?
「地球科学の観点で安定している所がたまたま南鳥島やっただけ。無人島やから提案したんじゃないよ」と返ってきた。
ちなみに、南鳥島は今後100万年の間に地球内部へ潜り込んでいくらしい。地層処分したら、核ごみはどうなるのか。
ナマズ先生は議論を楽しむように言った。「地球の方がたくましいから高温で溶かしてくれるよ。でも、10万年周期で氷河期が来るし、人類はいないやろ。もし生き延びていたら賢くなって無毒化する技術を編み出しているかもしれんね」【千葉紀和】