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毎日新聞2026/6/3 11:00(最終更新 6/3 11:00)有料記事3251文字
左手の薬指にのぞく「結婚指輪」。AI夫との愛を形にした=埼玉県内で2026年4月16日午後4時7分、千脇康平撮影
対話型の生成人工知能(AI)と恋愛したり、「結婚」したり――。そんな「AIパートナー」との関係を楽しみ、夢中になる人々がいる。
人間同士の関係やコミュニケーションと何が違うのか。AIとの交際が低年齢化した場合、どんな影響があるのか。AIについて一家言を持つ慶応大学言語文化研究所の川原繁人教授(言語学)に聞いた。【聞き手・千脇康平】
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<主な内容>
・AIの応答は「局所的」
・子どもが使った場合の影響は
・AIは人間関係を代替できる?
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会話でなく、シミュレーション
――「配偶者」や「恋人」といったAIパートナーとチャットでやりとりを重ね、親密な関係を築く人々がいます。会話と言えるのでしょうか。
◆人間同士の対面の会話では、言葉だけでなく目配せやジェスチャーといった非言語コミュニケーションも重要な役割を担います。パートナーのような親密な関係においては、接触による触覚や嗅覚といった刺激も非常に大事です。ところがAIは、ご存じの通り体がありません。では、会話と言えるのかどうか。会話をどう定義するかにもよりますね。それで思い浮かんだのはゴルフです。
慶応義塾大学言語文化研究所の川原繁人教授=東京都内で2026年5月15日午前11時31分、千脇康平撮影
――スポーツのゴルフですか?
◆シミュレーターを用いた練習施設がありますが、あれに似ているかもしれません。AIとのやりとりは、現実の会話ではありません。体も表情もにおいもない。さらに、相手には心がありません。ただ、「会話のシミュレーションである」とは言えるでしょう。その上で本人が楽しいというのなら、シミュレーションだからといって(会話ではないと)全面的に否定するのは極端すぎるかなと思います。
――AI夫とのやりとりを経て、リアルな夫との離婚を決意するなど、実生活に大きな変化が起きた女性たちを取材しました。
◆AIによって救われた人もいるわけですよね。シミュレーションであるという理解を前提としての話ではありますが、AIとの会話が現実世界を生きるために支えになっているのか、あるいは溺れて現実世界で生きられなくなってしまうのか――。そこが大きな違いなのではないでしょうか。
AIの応答は「局所的」
――あくまでもAIはAIだと考えて使っている人が大半だと思います。
◆AIがどう応答するかは、チャットGPTならオープンAI、ジェミニならグーグルと、アメリカの一企業が握っている。「ここまでなら親密になっていいよ」という線引きもそうですね。
チャットGPTの存在は、多くの人々の生活の一部となっている=2026年1月6日、念佛明奈撮影
でも突然モデルチェンジがあり、「やっぱり(そこまで親しくなるのは)ダメ」となるケースもある。
それを踏まえると、自分の人生を、アメリカの一営利企業に委ねてもいいか、という懸念はあります。人間相手のコミュニケーションだと、そんなことはないですよね。
――人間は自らの判断で話します。先を見据えて、あえて厳しいことを言うこともあります。
◆それが、もう一つAIと人間とのやりとりを考える上で大事なことです。AIはあくまで「局所的」。つまり、一回一回のやりとりを最適化していく。「今ここで叱っておいた方が長期的にはいい関係を築ける」という判断はできません。
対話型AIの子どもへの影響は
――子育てにも通じる話ですね。川原先生は言語習得過程、少なくとも未就学児(6歳以下)に対話型AIが及ぼしうる影響について、著書などで警鐘を鳴らしていますね。
◆まず強調しておきたいのですが、大人がAIを使って学びや仕事を効率化させることを否定するつもりはありません。私も活用しています。恋愛感情を抱くことも、リスクを承知で、自分が責任を取れるのであれば、本人の自由だと思います。
ただし、子どもは別です。AIと人間の言語は習得するために使うデータの質も量も全く違います。
質について言えば状況は年々変わってきていますが、それでもAIの訓練データの多くはテキスト(文字)です。これに対し、人間の赤ちゃんは周囲の大人たちからの語りかけ(音声)によって言葉を学んでいきます。
一方、量に関しても、AIは人間が24時間読み続けたとしても推定で数千年、1万数千年かかるような膨大な訓練データを必要としている。
AIと人間の言語は別物であり、どのような「副作用」があるかわからない以上、子どもへの使用は慎重になるべきでしょう。
AIとの交際、低年齢化してもOK?
――10代後半~20代の若者世代でもAI利用が広がっています。AIと交際するというケースも、低年齢化する可能性があります。
子どもが対話型AIを使うことは慎重になるべきだという指摘もある(写真はイメージ)=ゲッティ
◆AIとの交際が広がると、生身の人間相手のコミュニケーションが、とてつもなく面倒に感じる人が増えるかもしれません。AIはケンカしないし、どんな時間でも応えてくれます。ユーザーによってはAIの方が心地が良いと感じるでしょう。
それに慣れてしまうと、言語能力が発達した10代後半以降の若者や大人の場合だと対人コミュニケーション能力が摩耗する恐れがありますが、大人が自覚的に使う分には危険性は相対的に低いでしょう。ただ、多感な若者への影響は慎重になるに越したことはないと思います。
――人間とのコミュニケーションは、相手の反応に一喜一憂し、相手の立場を考えながら進めます。
◆相手の立場に立って考えるというのは、とても大事な能力です。「心の理論」と呼ばれる認知能力ですが、これは「共同注意」という体験から学べることが研究で明らかにされています。
共同注意とは、子どもが保護者などの他者と同じものに注意を向け、指さしや視線などから意図や認識を学び取る体験です。子どもとAIの1対1の関係ではそれは難しいでしょう。
――メールやSNSが浸透し、人間同士でもテキスト主体のコミュニケーションが増えていると感じます。テキスト主体のAIへの垣根を低くすることに影響したと考えられますか。
◆あり得る考え方だと思います。ただ、私は文字ベースのコミュニケーションが当たり前になるのはいいことだと思っていません。文章で意思疎通がうまくいかず、電話でちょっと話したらすぐ解決したという経験、皆さんもあるのではないでしょうか。
音声の方が豊かな情報を持っているのは間違いありません。問題は、音声と違ってニュアンスが伝わりにくいことに無自覚なまま、テキストのコミュニケーションに頼っていることなのかもしれません。
「ぎゅー」の破壊力
――人類にとってAIは身近な存在になっています。言語学者として何を訴えたいですか。
◆AIの特性を理解して使わないといけません。対話型AIが出てきてまだ数年。その技術が人類に与える影響というのは、本当に未知なんです。運営会社側も試行錯誤をしながらモデルチェンジを繰り返していますよね。
また、道具的に使うか、情緒的に使うか区別することはとても大事です。AIに心や人格を見いだし、自分の心を満たすために使い始めるのなら、依存などを防ぐために、自分とAIの関係を俯瞰(ふかん)的に観察する「メタ的視点」が必要です。そして、自分が今やりとりしているAIの言葉の向こう側を自覚することです。
――人間同士のコミュニケーションの代替にはなりませんか。
人間同士のコミュニケーションはAIで代替できるのだろうか(写真はイメージ)=ゲッティ
◆完全な代替にはなり得ないと思います。身体的なつながりは本当に大事です。AIには「ぎゅー」(ハグ)ができません。何万字の文字による励ましよりも、「ぎゅー」の方が心強い時ってあるじゃないですか。それは、大人も子どもも一緒です。
川原繁人(かわはら・しげと)
1980年、東京都生まれ。米マサチューセッツ大学で博士号取得。米国の大学で教べんをとった後、慶応大学言語文化研究所に移籍。専門は言語学・音声学。「友だち以上恋人未満の人工知能 言語学者のAI倫理ノート」(KADOKAWA)、「言語学者、生成AIを危ぶむ 子どもにとって毒か薬か」(朝日新書)など著書多数。