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毎日新聞2024/12/11 東京朝刊859文字
韓国の国会前で尹錫悦大統領の弾劾を求めるデモを行う人々=ソウルで2024年12月7日午後7時12分、日下部元美撮影
これでは政治の混乱が長引くばかりだ。早期に収拾しなければ、東アジアの安定にも影響が出かねない。
韓国国会で、正当な理由なく戒厳令を出した尹錫悦(ユンソンニョル)大統領の弾劾訴追案が採決されたが、必要な投票数に達せず成立しなかった。
与党代表は弾劾容認を示唆していたが、尹氏の謝罪談話で流れが変わった。与党議員の大半が採決を欠席し、廃案に追い込んだ。
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当面は首相が大統領の職務を代行し、尹氏に早期退陣を受け入れさせる代替案を与党は提示している。弾劾を回避し、権力の維持を図ろうとする動きだ。
しかし、国会で過半数の議席を持つ野党は訴追案を繰り返し提出する構えだ。大統領の不訴追特権のない内乱罪での捜査が進んでおり、尹氏は出国禁止処分を受けた。国政を担える状況ではない。
懸念されるのは、内政の混乱が外交に波及することだ。
尹氏は日韓関係を大きく改善させ、10年以上途絶えていた首脳のシャトル外交を復活させた。文在寅(ムンジェイン)前政権下では、徴用工問題を巡って「国交正常化以降で最悪」の状況に冷え込み、歴史認識問題での対立が経済・貿易や安全保障面にまで飛び火していた。
核・ミサイル開発を加速する北朝鮮への対応で不可欠な日米韓の連携を強化した。3カ国の協力を軸に、インド太平洋戦略を掲げて地域の平和と安定に関与する姿勢も打ち出した。
東アジア情勢は緊迫している。
ウクライナ侵攻を続けるロシアは北朝鮮との同盟関係を復活させた。東・南シナ海での中国の威圧的な行動も懸念材料だ。
米国では来月、トランプ次期大統領が就任する。中国製品への高関税による米中対立の激化が予想されており、地域経済への影響は避けられない。
良好な日韓関係と緊密な日米韓連携を保つ重要性がかつてなく高まっている局面である。尹氏のリーダーシップの下で進んできた日韓の関係改善が停滞しないようにすべきだ。
日韓両国政府には、実務レベルでの協力を通じて信頼関係を維持することが求められる。今回の事態による影響を最小限に抑える努力を尽くさなければならない。