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毎日新聞2026/7/2 07:00(最終更新 7/2 07:00)有料記事2188文字
写真はイメージ=ゲッティ
食事や運動だけでは改善しない2型糖尿病患者を対象にした治療薬「レタトルチド」の最終段階(第3相)の臨床試験で、血糖値の改善や平均15%の体重の減少が確認されたと、国際共同チームが英医学誌ランセットで発表した。専門家は「従来薬を上回る可能性がある効果で、肥満を背景とする糖尿病治療の新しい選択肢になりうる」としている。
レタトルチドは、セマグルチド(オゼンピック)やチルゼパチド(マンジャロ)と異なり、GIP、GLP-1、グルカゴンの三つのホルモンに作用する「3G」薬と呼ばれる糖尿病治療の次世代候補だ。これまでの研究で、強力な血糖コントロールや体重減少効果が期待されていた。
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試験は米国、メキシコ、インドの48医療機関で実施された。食事と運動だけでは血糖値のコントロールが不十分な2型糖尿病患者537人(平均年齢48・8歳、平均体格指数<BMI>35・8、平均ヘモグロビンA1c濃度7・9%)を対象に、4ミリグラム、9ミリグラム、12ミリグラムのレタトルチド、プラセボ(偽薬)のどれか一つを週1回投与するグループに無作為に分け、40週後に有効性と安全性を比較した。
その結果、過去2~3カ月の平均的な血糖値を反映するヘモグロビンA1cの減少は、プラセボ群0・81%に対し、最大用量12ミリグラムのレタトルチド群で1・94%と有意に低下した。体重も、プラセボ群が2・6%に対し、12ミリグラムのレタトルチド群では15・3%と大幅に低下した。
GLP-1関連薬の比較一覧
安全性については、レタトルチド群で最も頻繁にみられた副作用は軽度から中等度の胃腸障害(吐き気や下痢など)だったが、時間とともに軽減。重度の低血糖の報告はなく、有害事象による治験薬の中止率は2~5%と低い水準だった。死亡例も報告されたが、治験薬との関連は認められなかったという。
チームは「食事・運動療法で改善しない2型糖尿病患者に対し、レタトルチドの単剤療法は血糖改善と体重減少に高い効果を示した。副作用は従来薬と同等の傾向がみられ、新たな治療の選択肢として期待される」とした。
「食べない」「燃える」の二つの作用
「血糖値の改善と大幅な体重減少を同時に達成できる可能性を示した点で大きな意義がある」。今回の試験結果について、肥満症に詳しい長谷川一宏・徳島大病院准教授(腎臓内科)はこう評価する。
2型糖尿病患者にとって、減量は血糖値を下げるインスリンの効きを改善し、インスリンを分泌する膵臓(すいぞう)の負担を軽減する上で効果的な治療法の一つだ。ただ、2型糖尿病でない肥満の人に比べて減量が進みにくい傾向があるとされる。
こうした中、強い減量効果が期待されるレタトルチドは、糖尿病だけでなく肥満の治療薬としても世界的に注目を集めている。製造元の米製薬企業イーライリリーが5月に公表した速報値によると、糖尿病でない肥満か過体重の人に12ミリグラムを週1回投与したところ、80週後に平均で3割近い減量がみられた。
徳島大病院の長谷川一宏・准教授=本人提供
その最大の特徴は、食欲を抑えるだけでなく、グルカゴン受容体を介して体のエネルギー消費そのものを高める点にある。脂肪燃焼が促進され、基礎代謝が上がることで、体が燃えやすい状態に切り替わる。従来薬が「食べないことで痩せる」が中心だったのに対し、レタトルチドは「食べない」と「燃える」という二つの作用が組み合わさる点が魅力だ。
リバウンドしづらい?
今回の試験では、脂肪と筋肉がどれだけ減ったか評価されていない。長谷川医師は「筋肉量の変化について結論づけることはできないが、3G薬であるレタトルチドは従来薬より筋肉量を保ちやすい可能性もあり、今後の研究で明らかになる点として非常に興味深い」という。グルカゴンの作用は脂肪酸の利用を促すため、筋肉の分解を抑える方向に働くかもしれず、体組成への影響は今後の重要な検証ポイントだ。
体重のリバウンド(戻り)についても、3G薬ならではの特徴が表れるかもしれない。従来のGLP-1系の薬剤では、食欲が元に戻り、食事管理への注意が弱まることで体重が再度増える可能性がある。
しかし、長谷川医師によると、レタトルチドは食欲抑制に加えて代謝を高める作用を持つため、中止後の体重変化が従来薬と同じパターンになるとは限らないという。代謝の改善が持続する可能性もあり、「筋肉量を保ちやすい」「リバウンドが起こりにくい」といったデータが示されれば、グルカゴン受容体への作用はさらに注目され、肥満症治療の概念を変えるかもしれない。
「適応外使用は避けるべきだ」
人気のドーナツ店に並ぶ人たち=米首都ワシントンで2025年6月15日、林奈緒美撮影
一方で、従来薬として広く使われているセマグルチドやチルゼパチドでは、体重減少に伴い脂肪だけでなく、筋肉も一定割合で減ることが知られている。こうした薬剤の強力な作用は、医学的に必要な患者にとって大きな恩恵だが、健康な人が美容目的で安易に使用すると、筋力低下、低栄養、脱水、胆道系合併症、中止後の体重変動などさまざまなリスクが生じかねない。
今後、レタトルチドの承認に向けた議論が出てくるとみられる。長谷川医師は「日本人にも有望と思われるが、日本人特有の内臓脂肪型肥満への効果や長期安全性など詳細な検証はこれからだ。もちろん、適応外の使用は避けるべきで、医療の必要性がある人に適切な管理の下で使用されることが重要だ」と指摘する。【河内敏康】