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毎日新聞2026/7/5 08:00(最終更新 7/5 08:00)有料記事1842文字
物質・材料研究機構(NIMS)の寺田典樹主席研究員らが開発した極低温の蓄冷材「銅・鉄酸化物」=茨城県つくば市のNIMSで2026年5月19日午前10時41分、酒造唯撮影
少量を加えるだけでさまざまな性能を向上させ「産業のビタミン」とも言われるレアアース(希土類)は、ハイテク産業に欠かせない材料だ。
だが希少(レア)なため価格が急騰し、安全保障上のリスクにもなっている。レアアースに依存しない新材料の開発が進んでいる。
Advertisement中国依存がリスクに
レアアースは、原子番号57番ランタンから71番ルテチウムまでの「ランタノイド」と呼ばれる15種に、21番スカンジウム、39番イットリウムを加えた17種の元素の総称だ。
中でも、60番ネオジムはよく知られている。鉄などに混ぜると、世界最強クラスの永久磁石になる。電子機器や電気自動車などに幅広く活用されている。
脱レアアースへ 新素材の開発進む
ただ、レアアースは似たような化学的性質があり、鉱石からの分離・製錬が難しい。米地質調査所の統計によると、2024年時点の世界の埋蔵量は9000万トン以上あるが、その約半数が中国で、製錬量では中国のシェアは90%を超える。
つまり世界のレアアースの調達先はほぼ中国のみに依存しており、大きなリスクになっているのだ。
レアアースが欠かせない機器の一つに、磁気共鳴画像化装置(MRI)がある。撮影に超電導磁石を使っており、マイナス269度以下の極低温に保たなくてはならない。
冷却に使うのが、67番ホルミウムだ。比熱(熱をためる能力)が、極低温下で大きくなる特性がある。これ(実際にはホルミウム・銅合金)を蓄冷材に使い、吸熱と排熱を繰り返せば、極低温まで冷やせる。
ではなぜ、ホルミウムにそうした特性があるのか。
原子に含まれる電子は、磁石のような性質(スピン)を持つ。室温ではスピンの向きはバラバラだが、ある温度以下になると、一斉に整列する。これを「磁気相転移」と呼ぶ。水が0度で氷になるように性質ががらっと変わり、比熱が非常に大きくなるのだ。
ホルミウムは、磁気相転移を起こす温度が極低温近くにある。一方で他の金属は、この温度がはるかに高く、極低温では蓄冷材に使えない。
鉄と銅にアルミを加え、極低温蓄冷材
極低温をつくる蓄冷材
「別の材料で磁気相転移を起こせないか」。物質・材料研究機構(NIMS)の寺田典樹主席研究員は、原子の構造を変えることを考えた。
通常の原子は正方形の格子で、スピンが整列すると安定する。ところが、特殊な方法で正三角形の格子にすると、バランスがうまく取れず、整列しにくくなる。最終的には、格子の形を少し崩して整列するが、その分温度が下がる。
寺田さんは、鉄と銅にわずかにアルミニウムを混ぜた酸化物で、磁気相転移の温度を大幅に下げ、マイナス269度以下に冷却することに初めて成功した。
「ホルミウムは生産量が少なく、入手が難しい。ありふれた材料で代替し、実用化を目指したい」。寺田さんはそう意気込む。
進む新素材開発
脱レアアースの研究は、他にも進んでいる。
NIMSの世伯理那仁(せぺり・なびど)博士が開発した、ネオジムを使わないサマリウム・鉄磁石=茨城県つくば市のNIMSで2026年5月19日午前11時57分、酒造唯撮影
ネオジム磁石は、高温で磁力が失われる欠点があり、そのままでは産業機械には不向きだ。ここに66番ジスプロシウムをわずかに加えると、200度近くまで耐熱性を高められる。ジスプロシウムは世界で争奪戦になり、価格が高騰している。
NIMSの世伯理那仁(せぺりなびど)グループリーダーは、人工知能(AI)でさまざまな磁石の微細構造を解析。ジスプロシウムを使わずに高温に耐えるネオジム磁石や、これらの代わりに、より多く産出する62番サマリウムを使った磁石の開発に取り組んでいる。
東北大の徐超男教授は「応力発光」を研究している。
これは、材料に力や振動などを加えるだけで繰り返し発光する現象のことだ。1999年に徐さんが発見した。インフラのひずみを光で検知する構造診断など、幅広い応用が期待される。
希少資源に頼らない
しかし、通常の材料では発光が非常に弱い。実用レベルの強い発光を得るためには、59番プラセオジムや、63番ユーロピウムの添加が不可欠だと考えられてきた。
徐さんは、酸化亜鉛に着目した。力をかけると電圧が生じることで知られ、センサーなどに使われていた。そこに微量のナトリウムを加えると、指先で触れるほどのわずかな力で鮮明な近赤外線を出すことがわかった。
「レアアースなしでも発光するとは想像していなかった」(徐さん)。近赤外線は目に見えない一方、体内を透過するため、光遺伝学などの医療にも応用できるという。
それぞれの研究者が目指すのは、希少な資源になるべく依存しないことだ。より豊富な資源の中に、まだ多くの可能性が眠っているのかもしれない。【酒造唯】