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私は現在、Apple Music、Spotify、AWA、Google Play Music、Prime Music、LINE MUSICの6つの音楽ストリーミングサービスの有料会員になっている。しかしそろそろ3つくらいに絞り込みたいと思い、利用所感をまとめてみた。
曲数や機能の有無などの一般的な比較は既にネット上に多く存在しており、今さら私がそれを論じることの価値は薄いだろう。そのためここでは、利用者として実体験した中で感じた極めて主観的なことを中心に書いていきたい。さらに勝手ながら、派生して思い巡らせた音楽ストリーミングサービスの主に日本市場における戦略や展開に対するささやかな問題提起も後半にまとめてみた。
当然ながら各サービスの機能に関する言及は、このエントリーを公開時点(2017年7月19日)のものである。どのサービスも日々進化しており、あなたがこのエントリーを読んでいる頃には様変わりしている可能性もある。現時点でどうなっているかは、各サービスの無料トライアルなどで確認してみてほしい。
なお、私は聴いている音楽の9割が洋楽で、日本の音楽はほとんど聴かない。おそらく日本市場のマジョリティとは異なるタイプである。そのため賛同できる部分は共感していただきつつ、賛同しかねる部分は適当にスルーしてもらえると幸いである。
目次は以下の通り。好評だった前回エントリー「ONE OK ROCKは本当にアメリカで成功できるのか?」の2万字を超え、3万字以上ある。一気に読むのは骨が折れるだろうから、はてブなどでブックマークいただき、時間のある時に各章ごとに「つまみ読み」していただければと思う。
目次
- レビュー:Apple Music
- レビュー:Spotify
- レビュー:AWA
- レビュー:Google Play Music
- レビュー:Prime Music
- レビュー:LINE Music
- 日本人アーティストの配信状況
- 私の周囲の利用状況
- 各サービスのブランド力
- 2つの戦い方
- 各サービスの経営基盤
- 音楽ストリーミングにおけるUX
- SNS/CGM化の可能性と課題
- SNS/CGM化がもたらす収益
- 結局1番オススメのサービスは?
1. レビュー:Apple Music
私が初めて利用した音楽ストリーミングサービスはAWAだが、初めて課金したのはApple Musicである。2015年のサービス開始から使い続けている。そんな私が感じるApple Musicの強みは、曲数、プレイリスト、リコメンド、ライブラリの4つである。
Apple Musicに限らず、メディアなどで公表されている総曲数は良質な利用体験の目安としてはあまり参考にならない。例え4,000万曲といっても、そこにはコンピレーションやリマスター、再発などでの重複曲も多く含まれているからである。また大量に曲が存在しても、検索性能が低くそれらを発見できなければ意味がない。大事なのは「体感的に多いと感じられるか」ということだ。
その点からいってもApple Musicは収録曲が多いと実感できるサービスである。Apple Musicで聴けない曲は他サービスでも聴けないと思っていいほどに楽曲が揃っている。
プレイリストも充実している。公開されているのはキュレーターが作ったプレイリストだけだが、年別、ジャンル別、テーマ別、アーティスト別、名曲/隠れた名曲/はじめての○○など、様々なバリエーションのプレイリストが公開されている。「○○に影響を受けたサウンド」のように、音楽に対するマニアックな探求心を刺激してくれるプレイリストも多い。
Apple Music開始前に買収したBeatsが開発したとされるリコメンドエンジンもかなり高精度だ。私は比較的複雑な嗜好性を持っているリスナーだが、Apple Music上では聴取履歴がないはずの好きなアーティストやアルバムをかなり的確にリコメンドしてくる。
そしてライブラリである。iTunesで音楽を管理していた人が多い日本人にとっては、iTunesのライブラリとシームレスに連携できるということはApple Musicを選択しうる最大の要因になりえるだろう。
さて、このように考えると弱点がないように思えるApple Musicだが、実のところ、私はApple Musicをあまり使っていない。ほぼ、自分が所有するライブラリを聴くためのアプリと化している。なぜか。
充実していると評したプレイリストだが、実は案外使ってない。好みの問題とも思うが、これだけ豊富に用意され、的確にリコメンドされてくるのに、何度もリピートするようなプレイリストには未だ出会っていない。理由の一つはキュレーターが作って質を担保させているが故に面白みに欠けるからだろう。後述するSpotifyのように、リスナーが作ったプレイリストをアプリ内に開放するとプレイリストの質は全体的に低下する。しかし自分の趣味に合ったプレイリストや個性的なプレイリストを世界中から探す楽しみが生まれる。専門家によって均質化されたApple Musicにはこの面白みがまったくない。
前述の「○○に影響を受けたサウンド」も企画としては面白いのだが、具体的にどう影響を受けたのか、キュレーターはどういう事実に基づいてこの曲を選んだのかといった、読んで面白くなるような説明がなされるわけでもない。そのためそれ以上興味が広がらない。テーマに関心を持っても、収録リストだけ見て「なるほど」と思って終わってしまう。
スペック的には高度なリコメンド機能も、私がApple Musicを使う理由にはなっていない。Apple Musicローンチ当初に力を入れていた「For You」では、アーティスト、アルバム、プレイリストが中心だったが、この領域のリコメンドは非常に難しい。というのも、今の技術ではタイミングとコンテキストの問題を解決できないからである。タイミングとは、単に好きなアーティストやアルバムではなく、「今この瞬間聴きたいアーティスト」「今この瞬間聴きたいアルバム」を的確にリコメンドすることである。コンテキストとは、人同士がリコメンドするときの「薦めてくれる人が好き」「薦めてくれる人が熱心だったかた聴きたくなった」といった、人格ある推薦者の背景にある人間関係やリコメンドの文脈である。
結果、私がApple Musicのリコメンド系機能でよく使っているのは、曲をリコメンドしてくれるRadioくらいである。しかしこれはApple Music固有の機能ではなく、Apple Musicを使う理由にはなりにくい。
さらに、Apple Musicを使いたくならない理由にはもう一つ大きなものがある。それはUIの陳腐さである。Googleで「Apple Music UI」と入力すると、真っ先に「Apple Music UI ダサい」とサジェストされるほどに不評を買っている。
見た目が悪くても使いやすければいいのだが、どうもそういうわけでもない。バージョンアップするたびによく使う機能が削られたり、ステップが増えたりする。アルバム一覧には、網羅性と一覧性が乏しいレイアウトを採用している。今は改善されているが、アルバム詳細ではリリース年が欠けていてわからないことがあった。総じて「デザイナーは素人か?」と疑いたくなるようなUIが散見される。シャッフルやリピートが隠されていてスライドしないと見つけられないのはApple Musicだけである。iPhone 6sから実装された3D Touch機能を想定して利用体験を設計しているのだろうが、お世辞にも優れたUIとは言い難い。
また、これは私のPC環境の問題かもしれないが、実はiCloudミュージックライブラリが正常に機能していない。そのため、ライブラリを統合するメリットを全く享受できていない。ヘルプやネット上にある解決策を一通り試してみたが、私が保有する6万ほどの楽曲データがまったく転送されない。またiCloudミュージックライブラリをオフにしないと、既存ライブラリの曲をiPhoneやiPodに同期できない状態になっている。仕組みを考えるとこうなるのも理解できなくはないが、ネットを見ているとライブラリとの統合に関するトラブルは多いようで、この複雑な仕様はなんとかならないのかな、と感じる。
上記のような諸々の理由により、私の中でApple Musicの評価はそれほど高くなく、「過去に蓄積したライブラリの曲を聴くため」と「他サービスにはない曲が聴きたくなったため」だけに立ち上げるアプリになってしまっている。
2. レビュー:Spotify
Apple Musicの次に有料課金に参加したのがSpotifyである。これも日本上陸とともに使い始めた。この記事を書いている時点で世界で5,000万人が有料課金しているという実績は伊達ではなく、大きな欠点が見当たらないバランスのとれたサービスである。
曲数に関しては、Apple Musicよりはやや少なく感じる。Apple MusicにあってSpotifyにない、Apple Musicから遅れて配信されるといったことも散見される。広告モデルで無料聴取ができる故にSpotifyを認めていないアーティストやレーベルも存在し、その影響もあるのだろう。しかし総じていえば、不満に感じるほどの曲数の差異はない。
非常に豊富なプレイリストはSpotify最大のウリである。Spotifyのオフィシャルプレイリスト以外に、音楽メディアが作ったプレイリスト、アーティストが自ら作ったプレイリスト、そしてユーザが作ったプレイリストなどがほぼ並列に扱われている。これは非常にインターネット的なコンセプトだ。ユーザが作ったプレイリストは、アルバムを突っ込んだだけのような質の低いプレイリストも多いが、世界中の音楽マニアたちが編集した質の高いプレイリストも混在している。これが、Apple Musicのようなキュレーターが作った均質化されたプレイリストだけの世界では味わえない多様性や面白みに繋がっている。
ただ、自分でプレイリストを作って公開する喜びがほとんどないのは残念である。なぜなら世界中のプレイリストと競合しており、極東の一リスナーが作ったプレイリストが発見される可能性は極めて低いからである。有名人でなければ、見ず知らずの人にプレイリストがFavoriteされるようなことはほとんど起こらないだろう。この点に関しては後述するAWAより劣る。
Sporifyにもアーティストやアルバムのリコメンド機能はあるが、Apple Musicのように好みをピンポイントに捉えることにあまりこだわっていない。再生履歴からMixプレイリストを作ってくれたり、数点のプレイスストをピックアップしてくれたりする程度である。しかし前述のように、機械によるリコメンドにあまり魅力を感じない私にとってはこのくらいの緩いリコメンドで十分である。
Spotifyの良さを語る上でもう一つ触れておきたいのは、データベースの美しさである。他の音楽ストリーミングサービスではアルバムもEPもシングルも、ベストもごちゃ混ぜにリストアップされているが、唯一、Spotifyだけが「アルバム」「シングル」「コンピレーション」と、きちんとグルーピングされている。二枚組アルバムなどではDisk1、Disk2とグルーピングされている。年表示も、作品が最初にリリースされた年にほぼ統一されている。このようにキメ細かく丁寧にデータクレンジングされていることが、Spotifyの使いやすさを下支えしている。
Spotifyは前述のように、他サービスとは異なる無料で聴ける広告モデルも提供している。このことからSpotifyに反対するアーティストも多い。「音楽は無料であるべきではない」と考えるテイラー・スウィフトは、Apple Musicでは全アルバム、他サービスでは最新作『1989』以外の作品すべて配信をしながら、ある時期まではSpotifyにはまったく配信していなかった。(2017年6月にようやく全作品がSpotifyで配信された)
彼らは音楽配信最大手であり、既存の音楽業界にはいなかった新規参入者であり、音楽業界に破壊イノベーションをもたらす存在であるがゆえに、テクノロジーで音楽を食い荒らす拝金主義者のような言われ方をされることもある。しかし利用者としてSpotifyと接していると、それとは違った印象を持つ。
先ほど挙げたようなUIやデータベースの細やかな作り込み、プレイリストの運用ルールや適度なリコメンドなど、Spotifyは音楽業界やアーティスト以上に、リスナーがどのように音楽を楽しみ、どうすればさらに楽しめるかをきちんと理解しようと勤めているように感じる。その根源的な部分に感じるのは、彼らの音楽に対する深い愛情である。
私は音楽メディアや音楽ライターの記事に散見される、論理的な考察を放棄して安易に「愛」「熱量」「カリスマ性」などの、誰でもどうとでもいえる曖昧で情緒的な切り口で成功を分析する論調が好きではない。しかし、Spotifyを触ってみて思うのは、音楽を愛するスタッフがいて、そのスタッフで構成されたチームがあって、その積み重ねでできた企業文化が根底にあって、そんな彼らが議論を重ねた結果として、現在のバランスの取れた機能やUIが存在しているような気がしてならない。
2017年5月19日、SoundgardenやAudioslaveで活躍したヴォーカリスト、クリス・コーネルが亡くなったというニュースが世界中を駆け巡った。その数時間後、Spotifyは「This Is :Chirs Cornel」というプレイリストを配信した。そこには「Rest in peace. Only the loudest love-his amazing voice defined a generation and beyond」というメッセージも添えられていた。このようなスピーディーできめ細かい対応は、音楽愛に溢れたチームでなければ難しいのではなだろうか。今これをやれるのは、私がウォッチする限りSpotifyだけである。
Spotifyの日本上陸とともにApple Musicを使わなくなり、ほとんどをSpotifyで過ごすようになったのは、単にUIが良い、検索性が良い、といったことだけでない。その背景にあるSpotifyのマインドを感じ取り、彼らに対してAppleを上回る好意的なイメージを抱いたからである。端的に言えば「Spotifyを応援したい」「Spotifyを使っていると言いたい」という心理である。論理性を欠けた感情論だが、そう思わせるサービスであるというのは、音楽ビジネスにおいて非常に重要なことではないだろうか。
>3. レビュー:AWA
私がAWAに有料課金を行ったのはApple Music、Spotifyの後だが、初めて体験した音楽ストリーミングサービスはAWAである。ローンチとともに利用開始した。UIは美しいが曲は少なく、リコメンドもうまく効いておらず、西野カナや三代目J Soul Brothersや大原櫻子ばかりプッシュしてくる印象だった。女子高生のポエムっぽいタイトルが多いプレイリスト群も自分の趣味ではなかった。そのためトライアル期間の終了とともに利用を停止した。
改めて課金したのは調査目的であった。しかし実は今現在一番よく使っているのがAWAである。これは私自身まったく予想していなかったことである。
曲数は未だにApple MusicやSpotifyに大きく劣っていると感じる。例えばRadiohead、Arctic Monkeys、Bon Iver、The xxなどはかなりメジャーな洋楽アーティストだが、AWAではほとんど配信されていない。超メジャーであるThe BeatlesもAWAは一部作品しか存在しない。
リコメンド問題は解消しているようで、今は再生履歴に応じた適切なプレイリストが表示される。アルゴリズム自体はそれほど手の込んだものではなく、直近で聴いた曲を元にした単純なものであるが、これで十分でもある。
当初美しいと感じたUIは、改めて使ってみると野暮ったく感じる。Spotifyを意識したダークなトーン&マナーで統一されているが、多用されたイメージ写真や円形の再生インジケーターなど、個性を出そうとやや過剰デザインではないだろうか。音楽ストリーミングのUIにおいて主役はアートワークと検索や再生に関わる機能UIであり、それ以外の要素は極力排除したミニマリズムが相応しい。AWAのデザインは、これとは逆のアプローチに思える。
しかし、実のところ見た目はたいした問題ではない。致命的なのは、その検索性能の低さである。
同じアーティストなのに複数に分散してしまっていることが非常に多い。例えばArcade Fireは「Arcade Fire」と「アーケイド・ファイア」で別アーティストになっており、作品がそれぞれに分散してしまっている。
また、洋楽なのにカタカナで入れないといけないアーティストも存在する。Killer Be Killedという洋楽アーティストを探すのに「Killer Be Killed」と英語で入れても出てこず「キラービーキルド」とカタカナで検索しなければいけない。しかし、こんな検索をする人はほとんどいないはずだ。
さらに、The Killersというアーティストはきちんと「the」から入れないと1番最初に出てこない。しかし今の時代「killers」と検索する人の大半はラスベガスのロックバンドThe Killersを探しているはずだろう。
一説にはAWAの収録曲も4,000万曲に達しているそうだが、このような検索性能では、せっかく配信している曲が見つからない可能性がある。当然、運営側にも問題意識はあるだろう。例えば以前は「rem」と検索してもR.E.M.が上位表示されなかったが、今はきちんと1位に表示されている。検索については日々改善が加えられており、やがて気にならないレベルになるという期待はある。ただし現時点ではまだまだアラが目立つ。
検索に難がある一つの要因は、データベースが整理されてないためだ。Spotifyのようにアルバム、シングル、コンピレーションなどでキレイに分かれていない。また、作品には年表記があるが、これがリリース年になっていない。例えば1966年にリリースされたThe Beatlesの『With The Beatles』の年表記は2015年になっている。音源化された年、配信された年、リマスターされた年なのだろうか。AWAの年表記はほとんどがこのような感じで、情報としての意味をなしていない。
このように欠点ばかり目立つAWAなのだが、なぜ私がSpotifyよりも多く使うことになったのか。他のサービスには存在しない唯一無二の魅力が存在するためである。それは「プレイリストを共有する楽しさ」である。
プレイリスト作成機能は各社備わっている。しかし、AppleやGoogleをはじめ、多くのサービスは自作プレイリストはSNSにしか共有できない。サービス内でプレイリストの公開はできないし、他人が作ったプレイリストを検索することもできない。つまり、「SNS上の知り合いにプレイリストを共有する」ことはできるのだが、「プレイリストを作って自分と似た趣味の知らない人に聴いてもらう」は難しいわけである。
実はSpotifyにはAWAとほぼ似た、オープン型のプレイリスト共有機能が備わっている。プレイリストや作成者をフォローしたりできる機能だ。ただし前述のようにSpotifyは世界中と繋がり合っているサービスであるがゆえに、一日本人がプレイリストを公開しても、フォローされることも、発見されることもほとんど発生しない。そもそも日本人利用者が少ないのもプレイリストが広まらない理由の一つだろう。さらにいえば、通知など、プレイリスト共有を促進するような機能もない。
一方のAWAでは、プレイリストを共有するとかなりの高確率でリアクションが来る。数こそ少ないが、しばらく続けていると、見ず知らずの利用者からフォローされたり、プレイリストを公開すると必ずFavoriteしてくれたりするような緩やかな繋がりが生まれる。時に公式マークのある著名人がプレイリストをお気に入りに入れてくれたりもする。通知機能もあるので、誰かがFavoriteしてくれるたびに、ついアプリを起動してしまう。
さらに、自分が作ったプレイリストがアプリの中でおすすめとして取り上げられたり、ジャンル別や雰囲気別に分けられたプレイリスターランキングに掲載されたりなど、プレイリスト作成のモチベーションを高めるための機能がきめ細かく用意されている。(以下の図の赤い点線内)
実は、AWAのプレイリストは8曲までしか公開できない。最初はこれに物足りなさを感じたが、8曲だからこそ、あまり考え込まず、サッと作ってサッと公開する行動に自然となる。このあたりのバランスがとても上手に設計されている。
このようにプレイリストの作成と共有に非常に力を入れているのがAWAである。その根幹には「アーティストだけではなく、プレイリストを作っているリスナーも音楽の主役だ」という考えがあるのではないだろうか。もちろんSpotify同様で、気楽にプレイリストを公開できるからこそ、質の低いプレイリストも多い。相変わらずチャラいプレイリストも目立つ。しかし、プレイリストを作って見ず知らずの人に公開したいと思う人にとっては、事実上AWAが唯一の選択肢である。
ただし、実は100個くらいプレイリストを作ったあたりから飽きが出てきた。反応があるとはいっても、フォローされたりFavoriteされたりするだけで、それ以上の感想がもらえたり、つながりを深めたりができないためである。プレイリストを100以上作れる人は少数派だろうし、多くの人はもっと早い段階でAWAの唯一無二のこの魅力に飽きるのではないだろうか。個人的には、Instagramくらいのコミュニケーション機能を備えないと、強い差別化要因にはならず、結局AppleやSpotifyと曲数や機能、ブランド力で真正面から戦わざるをえないように感じる。この点については、後述したい。
4. レビュー:Google Play Music
Google Play Musicは日本ではApple Musicに続いてローンチされたサービスであるが、さすがGoogleというだけあって競合各社を研究したバランスの取れたサービスに仕上がっている。
曲数は、Spotifyよりやや多く、Apple Musicよりやや少ない印象だ。90年代に活動していたスウェーデンのエモバンドStarmarketはApple Music では6作品が配信されているが、Google Play Music では2作品にとどまっている。だが、60年代後半~70年代に活動したSonic’s Rendezvous Band『Sweet Nothing』のように、Google Play Musicでしか配信されていない例もある。このようにマニアックなアーティストにおいて配信ラインナップに差はあるが、総じてApple Musicとほぼ遜色ないといっていいだろう。
リコメンドの仕様はApple Musicに近い。再生履歴がなくとも、設定画面で好きなジャンルやアーティストを選択すると、好みに近いステーション、アーティストがトップに表示されるようになる。プレイリストは自分用にしか作ることはできず、シェアはできない。Google側からリコメンドされるのはプレイリストではなく、曲がその都度自動的に変わるステーションだけである。(ステーションはラジオのようなもので、テーマは決まっているが、何がかかるかは再生するまではわからない)
UIも細かい部分で気になる箇所は多々あるが、全体的には無難に仕上げている。画面構成はApple Musicに近いが、マテリアルデザインのルールを踏襲しているため、ビジュアルの印象としてはこちらの方がより洗練されているようにも感じられる。
このように、取り立てて欠点のないGoogle Play Musicだが、正直な感想としてはサービスに魅力を全く感じなかった。なぜかといえば、すべてが無難にまとめられているだけで、何の特徴もないからである。
世の多くの人は、Googleに先進的なイメージを抱いているかもしれないが、彼らの基本戦略はフォロアーである。例えるなら「後出しジャンケンの達人」であり、過去の成功サービスのほとんども実は後発である。検索エンジンはGoogle以前から存在したし、Google AdWordsもGoogle Mapもすべて先行者がいた。高度な技術力で先行者を凌駕するユーザ体験を提供し、市場を奪い取っていくのがGoogleの戦い方である。時に技術ではなく、GmailやGoogle Docs、Google Analyticsのように、本来は有償で提供できるものを無償提供するというイノベーションで市場を奪い取りにくるケースもある。いずれにしろ、成功した彼らのサービスには、競合が持っていないイノベーティブなアイデアが盛り込まれていることが多い。
しかし近年は、漫然と競合と同じものをリリースしているだけで取り立てて目立ったアイデアがないサービスも存在する。SNSのGoogle+、ファイルストレージサービスのGoogle Driveなどがそれにあたる。そしてGoogle Play Musicも漫然と提供されているサービスの一つである。例えばGoogle翻訳が先日、ニューラルネット機械翻訳を適応し、より自然な翻訳を実現するようになったが、こういう彼ららしい「技術的なスパイス」が、Google Play Musicにはまったく感じられない。
音楽の世界はロマンチストが多いので、「本当に良い音楽なら人は振り向く」という神話を信じたがる人もいるだろう。しかし、人が新しい音楽に出会うとき、力学として働いているのは残念ながら音楽の力ではなく、情報の力である。最近ヒットしている、映画に使われている、ダンスが子供たちに流行っている、ネットで話題になっている、友人がハマっている、これらすべて情報である。情報によって人は音楽を知り、興味を抱き、アプリを立ち上げて、再生ボタンを押す。
また、音楽と出会うだけでなく、さらに好きになるためにも情報は不可欠である。音楽を聴き、良い音楽だと感じただけで、その音楽やアーティストにのめり込む確率は少ない。しかし、それがどこの国のどういうアーティストで、どんな容姿で、どんなライブをして、どんな考えを持っていて、どんな生まれ育ちをし、世間ではどう評価されているのか、といった音楽の周辺情報が厚くなればなるほど、そのアーティストへの関心は高まる。そして興味の臨界を超えると、音楽だけでなく、そのアーティストに関するあらゆる情報がほしくなる。ライブには欠かさず行き、マーチャンダイズも積極的に購入するようになる。このように、音楽は情報によって出会い、好きになり、経済的な発展が生まれるのである。
情報として今でも圧倒的に強いのは文字であるが、動画や音声、画像などもまた、情報である。これらの音楽そのものではない情報群が、音楽との出会いやさらなる好奇心の高まりに影響を与えている。
Googleほどネット上で様々なサービスを展開しているIT界の巨人であれば、こういった情報と音楽をミックスさせることで、他社が追随できない唯一無二の音楽体験を提供できるはずである。Google Play MusicでOASISを聴いたことをトリガーとし、ノエル・ギャラガーとリアム・ギャラガーの兄弟喧嘩の歴史を振り返り、『(What’s The Story)Morning Glory』のジャケットの撮影場所にストリートビューで訪れ、世界中のブロガーが書いたレビューを日本語翻訳された状態で読み、Youtubeで”Champaign Supernova”のMVを確認し、Google Newsでマンチェスターのテロの追従集会で自然発生した”Don’t Look Back In Anger”の映像を閲覧し、Google+で見ず知らずの人とOASISについて語り合い、OASISがプリントされたTシャツを購入する。Googleであればそんなサービスが実現できるはずである。しかし残念ながら現在のGoogle Play Musicにこのような機能は存在せず、Apple MusicやSpotifyをただ模倣するにとどまっている。
この消極的な姿勢の根底にあるのは、「音楽への愛の薄さ」だろう。リスナーにより良い利用者体験を提供しようという熱意も、あるいは音楽ビジネスを革新しようという野心もなく、新しい音楽の楽しみ方を提供しようという問題提起もない。ただただ、競合各社が音楽サービスをやっている、Googleサービス圏を脅かす危険もある、だから私たちもひとまず音楽ストリーミングをやっておこう、という姿勢が透けて見えてくる。サービスを通じて音楽への愛を強く感じさせるSpotifyやAWA、Appleとは真逆である。しかしこの姿勢が、音楽ストリーミング市場におけるGoogle Play Musicの影響力の弱さに繋がっているのではないだろうか。
5. レビュー:Prime Music
Prime Musicは、Amazon Primeに加入しているだけで使えるAmazonのサービスである。私はAmazon Primeに加入していたため、手続きなくすぐに使うことができた。Amazon Primeを利用している人からすれば事実上無料である。これがPrime Musicの最大の魅力だろう。
ただし、音楽ストリーミングサービスとしての魅力はかなり乏しい。音楽好きであるならば、Prime Musicでは満足できないだろう。
曲数は非常に少なく、他サービスでは配信されている作品が存在しないことも多い。プレイリストはApple Musicと同じく運営側で提供する方式だが、こだわりのないプレイリストが多い。気の利いたリコメンド機能もなく、UIもApple Musicと同等かそれ以下の、野暮ったくて使う気が起きないデザインである。先程Google Play Musicは音楽愛が薄いと評したが、さらに愛情が感じられないのがPrime Musicである。
実は私は、音楽のある情報を求めてAmazonのWebサイトにアクセスすることが多い。それはレビューである。Amazonには比較的マイナーなアーティストのアルバムに対しても2~3のレビューがある。元々は購入の判断材料として提供されたものではあるが、音楽を購入した後にこのレビューを見に行くことも多い。つまり、読み物として楽しんでいるわけである。他人はどう感じたのか?という好奇心を満たしてくれるのがAmazonのレビューである。このAmazonレビューは当然ながらAmazonの独自コンテンツであり、他社が模倣できないコンテンツである。これがサービスに統合されていれば、少なくとも私はPrime Musicを立ち上げる機会がもう少し増えるだろう。
このようにサービスの研鑽に消極的なのは、Googleと同じ理由で、彼らとしては、Amazon TVなどのAmazonサービス圏に人を囲い込めれば良いからなのだろう。AmazonでCDやMP3を購入していた層を他サービスに逃がさないために、最低限のサービス提供をしているに過ぎないのかもしれない。
Amazonには、Amazon Alexaという今後大きく普及すると期待されている人工知能系サービスが存在する。このサービスとPrime Musicの連携は非常に興味深いものがある。実際、戦略担当者がAlexaとPrime Musicに言及したインタビュー記事も存在している。
しかしこれを読んで残念なのは、音楽のある限定的なニーズに応えているだけの、些末な機能にAlexaを用いようとしている、あるいは現時点でその程度の使い方しか想定されていない点である。例えば、
「ビートルズを再生して」から「新作をかけて」「ピアノのジャズをかけて」と言った命令を、Alexaが認識、Amazon EchoがSpotifyやAmazon Prime Musicから楽曲を引っ張り再生する、音楽を出発点とした一連のやり取りが実現できるのです。あらゆる音楽の形式の中で音楽ストリーミングこそがAlexaを体験するための引き金であることにアマゾンの勝機がありました。
とあるが、これは音楽聴取における「検索」という行為の中の一局面に過ぎない。確かに音声入力はインターフェースとして利用が増えつつあるが、あくまで検索の一選択肢であり、すべての人がこんな風に音楽を探して聴きたいわけではない。歌詞の一節を言って曲をリクエストするなどという機能も触れられているが、能動的なユーザがある局面だけで使う非常に些末な機能に思える。
これに加えて期待感を失わせるのは、前述したPrime Musicのチープな配信ラインナップである。AlexaのAPIをSpotifyやApple Musicと組み合わせられるのであればある程度楽しいことも出来そうだが、貧弱なPrime Musicをベースにしてもあまり魅力的ではない。例えばAlexaに「アデルの最新作をかけて」と話しかけても、Prime Musicと接続している限り「アデルは配信されていません」と返ってくるだけである。
Amazon Prime利用者が追加料金を払うことなく音楽が聴ける、という最大の強みがある反面、そうでないユーザや、多くの音楽を聴きたいと願うリスナーにとっては、Prime Musicは使う理由を見出すことが非常に難しいサービスといえる。ただ逆に言えば、Prime MusicのラインナップがApple MusicやSpotify並みになれば、「Amazon Primeに加入していれば事実上無料」を武器に、他サービスを駆逐する存在になる可能性はある。Amazonは採算度外視で破壊的なことをする企業であるため、今後もその動向をウォッチし続ける必要はあるだろう。
6. レビュー:LINE MUSIC
日本には、先程挙げたAWA以外に、レコチョクBest、Rakuten Musicという国産の音楽ストリーミングサービスが存在するが、LINE MUSICも代表的な国産サービスの一つである。
配信曲の傾向はAWAに近い。日本でも人気の高いアイスランドのポストロックバンドSigur RosのアルバムはApple Music、Spotifyはすべて、Google Play Musicは1stアルバム『Von』を除くすべてを配信しているが、AWAとLINE MUSICは歩調を合わせたかのように4th~6thまでしか配信されていない。また、AWAには存在しないArctic Monkeys、Bon Iver、The xxはやはりLINE MUSICにも存在しない。
似ているといえば、先ほどAWAの弱点として指摘した検索性能の低さは似ている、もしくはそれ以下である。「David Bowie」で検索すると7つのDavid Bowieが表示される。もちろんすべてあのデヴィッド・ボウイである。Killer Be Killedはやはり「キラービーキルド」とカタカナで検索してないと出てこない。R.E.Mは「rem」と検索しても未だ上位表示されない。ただしThe Killersは「killers」で検索して1番目に表示される。年表示はきちんとオリジナルのリリース年が表示されている。このようにAWAより優れる部分もあるが、総じてAWAと同じかそれ以下であり、よくできているとは言い難い。
プレイリストの仕様はApple Musicとほぼ同じで、サービス内で公開はできないが、SNSを通じてシェアができる。シェアのリストにLINEが真っ先に表示されるのは当然として、FacebookやTwitterも選択肢としては表示される。LINE MUSIC開始時には、LINE上でのコミュニケーションが最大の魅力のような報道がなされていたが、実際に使った印象としては単にLINEでシェアできるというだけであり、確かに無料で30秒だけ聴けたりはするのだが、Youtubeや他ストリーミングサービスのURLを張り付けるのと、体験として大きな違いを感じることができなかった。提供されている公式プレイリストはこだわりのあまり感じない、面白味のないものが多く、Prime Musicに近い印象がある。SpotifyやAWAのように、プレイリストを探したり作ったりする喜びはほとんどない。
LINE MUSICで優れていると感じるのはUIだ。Apple Musicの以前のバージョンに似たレイアウトで、余計な装飾がなく、シンプルにまとまっている。個人的にはSpotifyの次に洗練されていると感じる。
ただやはり全体としては、Spotify、AWA、Apple Musicのような「こだわり」や「音楽愛」を感じるようなサービスにはなっていない。大手プラットフォーマーがLINEのブランドパワーを使ってひとまずサービスを提供しました、という印象がぬぐえない。せっかくLINEがやるのであれば、他サービスでは提供できない、LINEならではの音楽体験や人との繋がりが演出できればいいのだが、今のところ、単に好きな曲をLINEで提供できるというレベルに留まっている。私個人の結論としては、まったく魅力を感じないサービスである。
(2017年7月26日「デスモスチルスの白昼夢」より転載)