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毎日新聞2026/7/20 07:00(最終更新 7/20 07:00)有料記事2993文字
半導体関連企業
キオクシアにエヌビディア、TSMCと、半導体関連企業がニュースに頻出するようになって久しい。
その重要さから「産業のコメ」となぞらえられる半導体だ。
でもここだけの話、我が子にすらすらと説明できるかといえば、自信がない。
どんな仕組みなのか? なぜこうも話題に? イチから知りたい。
新聞がいう「半導体」とは
いろはのい、は誰に尋ねれば? うってつけの講師役を見つけた。
ジャーナリスト、湯之上隆さん(64)。半導体の技術者だったことがあり、その後、大学で半導体産業の研究に携わった。現在は半導体産業へのコンサルタント業務にも携わる。
「『半導体』という言葉は今、二つの意味で使われています」
湯之上さんは言葉の定義から説明を始めた。
一つは物質の名前。私たちの身の回りには銀や銅のように電気が流れる導電体と、ガラスのように電気を通さない絶縁体がある。その中間が半導体だ。
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「でも新聞やテレビで使われるときは『半導体集積回路』を指しています。集積回路ですが、その部分を略しているわけですね」
身の回りでいえば、パソコンは種類の異なる幾つもの半導体が組み込まれている、と湯之上さん。説明してもらうと――。
まず、人間の脳みそと似た役割を担うのが「ロジック半導体」の中央演算処理装置(CPU)。
コンピューター内部で「0」「1」の2進数で表現される情報を演算処理する。
その相棒が「メモリー半導体」のDRAM(ディーラム)。人間に例えれば短期記憶の役割を担う。
キーボードに入力したデータを記憶し、CPUとやり取りすると、文章や図、表が画面上に現れる。
対照的に、人間の長期記憶にあたる役割を果たすメモリー半導体もある。
有名なのがNAND(ナンド)型フラッシュメモリー。
パソコンの電源を切っても消えないデータ、つまり米マイクロソフトのウィンドウズのような基本ソフト(OS)はもちろん、音声や画像、文字情報も記憶する。
ほかにも各部品に適切な電力を供給する「パワー半導体」、通信に必要な「通信半導体」といったものもある。
TSMCの勝因
湯之上隆さん=本人提供
半導体を理解するために、避けて通れないのが「トランジスタ」と呼ばれる部品だという。
「ダムの水門をイメージしてください。水門が開くと水が流れ、閉じると止まりますね」
電圧をかけると電子が流れ、電圧をオフにすれば電子が流れなくなる。そんな構造だ。
前述のようにパソコンの中で「0」と「1」の2進数で表現される情報は、電子の流れない状態が「0」で、流れた状態は「1」を意味する。
「半導体業界はこのトランジスタをいかに小さくするかに腐心してきました。複雑なデータ処理を高速でこなす回路を作るには、トランジスタを数多く組み合わせなければなりません」
湯之上さんによると、半導体産業は1960年代以降、一つのチップに詰めるトランジスタの数は2年で2倍に増え続けてきた。
これを実現してきたのが、トランジスタを小さくする「微細化」だ。
寸法を2年で約0・7倍に縮めると、面積は約半分(0・7×0・7≒0・5)になり、同じ面積により多くのトランジスタを載せられるようになる。
「60年代のトランジスタは1辺あたり30マイクロメートルほどありましたが、今では十数ナノメートルまで小さくなっています」(マイクロ=10のマイナス6乗、ナノ=10のマイナス9乗)
電子機器が性能を向上させつつ、薄く、軽く、小さくなっていく背景には、この技術の進歩があったということか。
半導体関連企業のうち、最先端の微細化において成功を収めているのは台湾積体電路製造、つまりTSMCだ。
子会社(JASM)の熊本工場も話題になっている。「製造」に特化したのがTSMCの勝因という。
湯之上さんによると、半導体ができるまでの工程は大まかに、トランジスタなどの素子をチップの上にどう配置して回路を形成するかを考える設計と、実際に半導体のシリコンウエハーの上にチップを作り込む製造に分かれる。
TSMCは主に製造を行う。例えば、iPhone(アイフォーン)で知られる米アップル社は設計を手がけ、製造はTSMCに委託する。
「TSMCが半導体の受託生産の分野で世界シェア約7割を占めて独り勝ちしたのは、半導体設計企業が設計しやすい仕組みを構築したことが勝因でしょう」
エヌビディア1強状態、日本は…
それにしても、である。このところの関連企業の株急騰はスゴすぎる。確かに身の回りは電子機器だらけだけど……。
「2010年代後半から、スマート家電や工場の自動化などIoT(モノのインターネット)が広がり、人類が生み出すデジタルデータの量は爆発的に増えてきました。そこにさらに拍車をかけたのが、22年に登場した生成AI(人工知能)の『チャットGPT』です」
グーグル検索とチャットGPTを比べれば一目瞭然だという。
調べたい言葉を打ち込むという人間の動作は同じだが、「0」「1」で計算や推論を行う演算量は、チャットGPTはグーグル検索の最大10万倍(24年時点)。
「その後も増大して今は100万倍以上にはなっているかもしれない」
このデータを処理するのは私たちが手にする端末ではなく、大量のデータを保管・処理する世界各地のデータセンターだ。
「サーバーと呼ばれる大型コンピューターのようなものが多数並んでおり、AIの場合、AIサーバーが学習や推論をします」
AIサーバーで演算を行うのが、主に「画像処理装置(GPU)」と呼ばれる半導体だ。
GPUを設計しているのが米国のエヌビディア。半導体メーカーの売上高は、エヌビディア1強状態だという。
GPUの動作には前出のDRAMやNANDも必要で、それらも値上がりしている。活況が続くわけだ。
「世界の半導体市場は10年で2倍になってきた歴史があります。ところがAI効果で、25年はすでに20年の約2倍です。26年は1年間で25年の約2倍と急伸が予測されます」
話題の企業の一つ、キオクシアは、NANDを発明した東芝の事業を引き継いだ。
NANDの製造・販売で韓国のサムスン電子、SKハイニックスに次ぐ世界シェア3位だ。
日本の半導体産業はかつて注目を集め、湯之上さんが日立製作所に入社した87年当時、世界のDRAMの8割は日本が生産していた。
だが、コンピューター業界のパラダイムシフト(大きな変化)に対応できず衰退していった、と湯之上さんは指摘する。
「半導体を作るための製造装置と材料では強い分野がまだあります。しかし、多くの製造装置のシェアは低下傾向にあります。大きな問題だと思います」と顔を曇らせる。
業界全体は活況でも、課題はあちこちにある、ということなのだろう。
湯之上さんはこう言って締めくくる。
「半導体は人類の文明に必要不可欠で、グローバルに協力し合うべきです。そのためにぜひ、多くの人に半導体を正しく理解してほしい」【榊真理子】
湯之上隆(ゆのがみ・たかし)さん
1961年、静岡県生まれ。京都大大学院修了(工学博士)。87年に技術者として日立製作所に入社。退社後は同志社大専任フェローを経て、現在は半導体産業と電機産業のコンサルタント、ジャーナリストとして発言する。著書に「日本型モノづくりの敗北」「半導体有事」など。