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毎日新聞2026/7/21 15:00(最終更新 7/21 15:00)有料記事2224文字
東京都内で開かれたイベントに出席する米オープンAIのサム・アルトマン最高経営責任者=2025年2月、ロイター
人工知能(AI)の急激な性能向上に、大学の対応が追いつかない。大胆なAI導入に振り切る教員がいる一方で、アナログな方法に回帰する授業もあるなど、試行錯誤している状態だ。AI利用を前提とした成績評価のあり方も問われている。
「本著を作成する段階でAIと筆者が協働している」。教科書の序章にはこう書かれていた。ある東日本の国立大では、AI利用を前面に打ち出した教科書が登場した。
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<今回の主な内容>
・「AI教科書」への賛否
・アナログに回帰する授業
・米で「全面禁止」の学校も
・焦る大学教員
「なぜ先生はよくて私たちはだめ?」
教科書は2024年発売の、経営学について書かれた計17章の電子書籍。著者は本の中で「社会実験をするため書かれた教科書」と紹介していた。大学は25年度前期のシラバスで、参考書としてこの教科書を明記した。
教科書を買ったという3年の女子学生は「内容的には気にならなかった」、教員の授業を受けた3年の男子学生は「先進的」と肯定する。
ただ、疑問を呈する声も複数聞かれた。この大学のルールでは、AIの出力をそのまま課題で提出する「丸投げ」は、不正行為に該当する可能性があるとする。別の3年生の男子学生は「耳が痛くなるほどAI利用はだめだと大学から言われる。それなのになぜ先生は使ったのか。内容も考え抜かれたものなのか」と語った。
著者の教員は取材に「経営の教科書は一般的な理論を理路整然と書くもので、平均的なことを言うにはAIと相性が良い」と、AIを使った理由を説明する。チャットGPTにテーマを与え、文章の出力を試みた。ただ実際には「AIの文章作成能力が低く、ほとんど僕が書き、AIに編集させた」。
生成AIの利用可否・利用方針の項目を設けている慶応大のシラバス=慶応大のシラバスのホームページより
学生のAI利用について「AIの出力内容を吟味する能力」が求められるとし、吟味までAIに代替させるのは否定的だ。ただ、今後は「出力内容をすべて自分で説明できる」などの条件付きで、積極的に認めていく方針だ。「実社会は不可逆的にAI導入が進む。教育がどう追い付けるかが試されている。大学は抑えつけるばかりでは、社会との距離が広がっていく。教員自身の力量が問われている」と強調する。
過渡期で試行錯誤
対して、アナログに回帰する現場もある。
「世界最高峰のAIキャンパス」を掲げる慶応大。生成AIの利用方針について、授業ごとにルールを定めるなど画期的だ。ただ個々にみると「利用不可」「原則禁止」の授業が目立つ。
ある学生は、AIの利用方針を「誰も読んでいないし、基本、無視しています」と明かす。AIをフル活用する「適当な人」ほど点数が取れている状態だという。
慶応大三田キャンパスの東門=東京都港区で
学内のシステムがAI利用に拍車を掛ける。講義資料は学内のサイトにアップされ、授業によってはリポートをオンラインで提出する。AIの誘惑に負ければ、ダウンロードした講義資料をAIに食わせて「丸投げ」し放題な状態だ。
「AIに資料を食わせて、何も考えずにリポートを完成させる方法を何とか防ぎたい」。慶応大法学部の烏谷昌幸教授はそう話す。対策のため、昨秋から授業の形式をスライドから板書形式に戻した。
黒板に文字を書き連ね、学生はノートやパソコンに書き写す。学生からは「板書の方が(授業の速度が)ゆっくりしていて理解しやすい」と歓迎する感想もあるという。
ただ、学生全体からの評価は分からない。「一度、アナログに戻るのも選択肢。試行錯誤中で、板書が良いとの自信を持っているわけではない。過渡期の実験的な方法」と話す。
「チャットGPT」についての対話集会で、慶応大を訪れたオープンAIのサム・アルトマンCEO。学生から多くの手が挙がった=東京都港区の慶応大三田キャンパスで2023年6月、和田大典撮影
慶応大では、授業への出席を促そうと「合言葉」(キーワード)の手法もとられる。教員が授業中に合言葉を伝え、課題と一緒に提出させることで出席を確認する。
しかし、ある学生によると、大学の講義情報が見られる「時間割アプリ」では、同じ授業を受ける学生同士で「合言葉を教えて」「(ペイペイで)謝礼します」と合言葉が売買されている。学生は「テクノロジーは発展しているのに、合言葉だとか学びの場はアナログ化している」と苦笑する。
焦る教員
試行錯誤や二極化は米国でもみられる。フロリダ大は全学的にカリキュラムにAIを組み込む方針を掲げる。対してカリフォルニア大バークリー校の法科大学院はAI使用を今夏からほぼ全面的に禁止し、注目を集める。背景には、批判的な思考がAIに頼ることで失われている危機感がある。
学生と教員の生成AI利用状況調査
教員も焦っている。仙台大の25年3月の調査(大学・大学院の教員約400人を対象)によると、約8割の教員が「AIで生じる教育的課題に対処しなければならないと思う」と回答した。AIを前提とした授業方法や評価の仕方、不正の防止法などについて対応する必要性を感じていた。
調査した斎藤長行教授(社会情報学)は、「大学は授業や評価の方法を変えないといけないが、それを教員個人に委ねることは限界がある」と話す。仙台大の調査では、教員の生成AIの利用率が、学生と比べて約18ポイントも低かった。
斎藤教授は「学生がどういう使い方をしているのか分からない教員もいる。組織的な研修や、不正行為に当たる基準作りが必要だ。中小の大学では手が回らないところもあり、政府が好事例を共有するなど、各校で対策が取れるように支援が求められる」と指摘する。【木許はるみ】
生成AIで教育のあり方が大きく変わろうとしています。「AI新世紀」では7月31日まで、AI時代における学びの変容を報告します。