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毎日新聞2026/7/27 06:00(最終更新 7/27 07:07)有料記事2359文字
ゴリラの面を手にする総合地球環境学研究所の山極寿一所長=京都市北区で2026年7月14日、北村隆夫撮影
人間の知能をも超えようとしている人工知能(AI)。人類学者でゴリラから見た人間社会などを論じてきた山極寿一・総合地球環境学研究所長は、人類が「最終章」に差し掛かっていると危機感を隠さない。人間とAIの関係はどうなるのか。我々はこの時代に何を学ぶべきなのか。
<主な内容>
・人類に起きかねない「自己家畜化」
・AIに絶対やらせてはいけないこと
・なぜ今は人間の「最終章」なのか
欲望だけを持ち、主体性が奪われた存在に
――AIの飛躍的発展に、教育はどう対処すればよいでしょうか。
◆教育はいまだに、答えが分かっているものに対し、早く答えを出す修業を座学で続けています。それが必要なくなります。ゼネラル(総合的)に世界で何が起きているかを理解する教養は必要です。さらに、これまでになかった価値を創造する力が教育で鍛えられないといけません。
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人間にあってAIにないものは「身体」です。身体を持っているからこそ、恥ずかしい、楽しい、うれしいという感情が起きます。人との関係性によっても感情が変わる。一方でAIは「ふり」はできるかもしれないが、感じることはできません。身体を持ったものだけが集団の中で、そういう世界を感じられる。教育ではそれを味わわないといけません。
――AIは人間の思考や脳に、どんな影響を与える可能性がありますか。
◆2万年前と比べると、ホモサピエンスの脳はだんだん小さくなっているといわれています。言葉や文字によって、記憶や考える能力を外部に出して脳の中身をデータベース化してきました。今、私たちはあまり物事を覚えていません。スマホに聞けば済む。AIによって、それが加速されることは間違いありません。
――AIによって、脳がさらに小さくなるということですか。
◆「自己家畜化現象」が起きる可能性があります。家畜は野生種より脳が小さい。それにきゃしゃになる。自己防衛も武器を作る必要もなく、人間がエサも与えてくれるからです。しかも繁殖だって人間に任せればよい。人間もだんだんそうなっていくかもしれません。
インタビューに答える総合地球環境学研究所の山極寿一所長=京都市北区で2026年7月14日、北村隆夫撮影
今は結婚しなくても体外受精や精子を買うことで子どもは作れる時代です。人間が身体や脳を使わないとできないとされてきたことが、AIを含めた外部に任せることができるようになってきています。能動的であり続けた人間の主体性が奪われてしまう。人間が欲望だけを持って、受け身の存在になるのが一番怖いことです。
それに生殖技術を応用すれば、寿命が延ばせるかもしれない。高齢になれば若い人に道を譲っていたのが、AIが仕事を代行することで、高齢者が権力にしがみつき、王様気分で100%欲を満たせるかもしれません。社会は混乱します。
人間関係が利益優先に
――AIとはどう向き合えばよいでしょうか。
◆AIは情報を整理するのは得意ですが、AIが本来できないものにまで依存するのは間違いです。人間関係の処理は絶対にAIにやらせてはいけません。AIに「この人と付き合うにはどうしたらよいか」と聞くと、答えはすると思います。
でも僕らは相手のことをもっと知りたいと思うし、100%知ったら面白くない。分からない者同士だから、一緒にいる意味が出てくるのです。
チャットGPTの画面=東京都千代田区で2023年11月27日午前11時48分、渡部直樹撮影
私はAIが人間関係にもたらすのは「サル化」と言っています。人間は家族と共同体を持ち、互いに協力し、共感しながら生きてきました。しかし、サルは、相手が強いか弱いかで判断し、序列に沿って、それぞれの利益や効率を優先した行動をします。
人間は、類人猿より2段階上の社会的認知を持っています。人間はAとBが何かをしていると、その2人が何を考えているか予測できます。さらに、それを見ているCが考えていることも推理できる。人間はさまざまな人々が絡み合う事態を想像することで、この複雑な社会で判断ができる。
AIは情報を組み合わせて判断するだけなので、人間のことを理解はできません。AIは相手に共感することなく、論理に沿って利益を追求した回答をします。人間はそれに従うことで「サル化」が進むのです。
乗っ取られようとしている人間
――人類は農業革命、産業革命など、いくつかの革命を経てきました。AIもそれに匹敵する変革でしょうか。
◆AIは人間がやってきたことの集大成となる革命でしょう。
産業革命以降、私たちは体を捨て、機械になろうとしてきました。人間の機械化です。時間を分母にして、あらゆることを時間で計り、早さを競ってきた。ところがAIが人間に近づくと、機械になった人間は簡単にAIに使われます。
また人間は物語によって世界を理解してきました。宗教が典型例です。ただ、AIは宗教を理解できない。宗教にはエビデンス(科学的根拠)がないので、AIが理解するための情報がないからです。
産業革命以降、人間は直線的に歩み、人間とは何かを見直さなくてよかった。ここで初めて、自ら作り出したものに人間が乗っ取られようとしています。だから今は、人間にとっての最終章なのです。人間とは何かを改めて見直し、新たな人間像を打ち出さないと、確実に人間は滅びます。
インタビューに答える総合地球環境学研究所の山極寿一所長=京都市北区で2026年7月14日、北村隆夫撮影
早くそれを阻止し、AIと人間それぞれの存在意義を見定め、役割を分担して歩まないといけない。それを考えることが、私たちに求められています。【聞き手・木許はるみ】
山極寿一(やまぎわ・じゅいち)氏
1952年生まれ。東京都出身。霊長類学者・人類学者・ゴリラ研究の第一人者として知られる。京都大教授、同学長、日本学術会議会長などを経て2021年から現職。「ゴリラの森で考える」(毎日新聞出版)など著書多数。
生成AIで教育のあり方が大きく変わろうとしています。「AI新世紀」は7月31日まで、AI時代における学びの変容を報告します。