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毎日新聞2024/12/25 東京朝刊有料記事1004文字
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世界が注目するチーズの生産国がある。それは……=東京都内で2024年10月20日、赤間清広撮影
ポルトガル屈指のワインの街ビゼウが今秋、チーズの香りに包まれた。世界最大のチーズコンテストが開かれたためだ。
ポルトガルで11月に開かれた「ワールド・チーズ・アワード2024」の審査風景=チーズプロフェッショナル協会提供
各国から集まったチーズは5000近く。上位に与えられる「スーパーゴールド」には、北海道のチーズ工房「CHEESEDOM」が出品した「瀬棚」が選ばれた。
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確かに快挙ではある。だが、驚きではない。日本のチーズは既に世界的な品評会で上位入賞の「常連」となっているからだ。
日本のチーズ工房は急増中。さまざまな国産チーズが売り場を彩る=東京都内で2024年10月20日、赤間清広撮影
国産チーズがいま、空前の盛り上がりを見せている。2010年に150程度だった国内のチーズ工房数は昨年時点で350以上に急増している。
そのブームを作りだし、支えているのが、苦境の中で活路を見いだそうと奮闘する酪農関係者だ。
「こだわって生産した牛乳のおいしさを消費者に届けたい。そうした思いから自ら工房を開く酪農家は多い」
チーズプロフェッショナル協会の坂上あき会長=東京都内で2024年10月20日、赤間清広撮影
こう解説してくれたのは、チーズプロフェッショナル協会の坂上あき会長(60)だ。
生産者(1次産業)が自ら商品の製造・加工(2次産業)や販売(3次産業)を手がけることを「6次産業化」と呼ぶ。チーズはその好事例となっている。
ただし、それだけで世界的な評価は得られない。どうやら、日本には隠れた援軍もいるようだ。
「明確な科学的根拠はないんですけど……」と断って、坂上さんが教えてくれた。
「長年、日本の発酵文化を支えてくれた微生物の力もきっとあると思う。日本のチーズは『うまみ』が強いとよく言われるから」
国内チーズの品評会でグランプリを受賞し、表彰を受けるチーズ工房タカラの斉藤愛三さん(中央)=東京都内で2024年10月20日、赤間清広撮影
10月に東京都内で開かれた国産チーズの祭典。最高峰のグランプリに輝いたのは、北海道喜茂別町のチーズ工房タカラだった。
チーズ職人で経営者の斉藤愛三(なるみつ)さん(42)の実家は酪農家だ。
「両親がつないでくれた牧場。そこで兄夫婦が愛情を持って育てた牛から生産したミルクでチーズづくりができる」ことがタカラの人気の秘密だ。北海道の酪農の歴史と風土が育てた味と言える。
全国のライバルたちの品質も驚くほど上がっているという。だからこそ、斉藤さんは断言する。
「日本のチーズはもう本場の欧州と比べても引けを取らない」
もちろんチーズ人気が上がっても、それだけで資源高などが直撃する酪農の危機が去ったわけではない。でも、酪農の可能性を示す大きな一歩になったに違いない。
よし、決めた。年末年始は牛乳を片手に、国産チーズの食べ比べとしゃれ込もう。(専門記者)=次回は1月8日に掲載します