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毎日新聞2025/1/12 東京朝刊有料記事2151文字
漁業・養殖業の生産量の推移
<気になる>
日本の漁獲量(ぎょかくりょう)が大幅に減少しています。1984年に1282万トンあった漁業・養殖業(ようしょくぎょう)の生産量は、この40年間でどんどん減り続け、2023年に372万4300トンと統計開始以降、最低を更新しました。このままだと、いずれ国産の魚が食べられなくなるのでしょうか。減少している背景を探り、持続可能な漁業について考えます。
◆どうして減っているの?
国際的規制や海の温暖化で
なるほドリ なぜ日本の漁獲量は減っているの?
記者 減少の原因は複数あります。まず挙げられるのは、およそ40年前に国際的なルールで定められた「200海里水域制限(かいりすいいきせいげん)」です。日本の漁船は70年代ごろまで、はるか遠くの外国の海で漁業を行う「遠洋(えんよう)漁業」を盛んに行っていました。しかし、82年に「国連海洋法条約(こくれんかいようほうじょうやく)」という国際ルールが採択されて、それぞれの国の岸から200カイリ(約370キロ)内に外国の船が勝手に入って漁をしてはいけないことになり、日本の漁獲量は徐々に減り始めました。
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Q 日本は遠洋漁業が主流だったの?
A 水産庁によると、日本の漁業は戦後、沿岸から沖合へ、沖合から遠洋へと漁場を拡大することで発展しました。ピーク時の遠洋漁業の漁業生産量は、漁船漁業全体の約4割を占めていましたが、90年ごろにその量は約1割まで低下しました。条約の規定によって、打撃を受けたわけです。
Q ほかの原因は何?
A 近年、最も深刻な問題となっているのは、気候変動による海水温の上昇や海洋汚染による海洋環境の異変です。特に、温暖化による海水温の上昇は顕著(けんちょ)で、気象庁によると、日本近海の海面水温はこの100年で1・28度高くなりました。特に直近4~5年間の海面水温の上昇は異常なレベルで、日本近海の温暖化は世界の海よりも早く進行しているという分析もあります。
Q 海の温暖化が進むと、なぜ魚がとれなくなるの?
A 魚は種(しゅ)によって適した水温の海域に生息します。このため、海水温の変化によって、魚たちは生息域(せいそくいき)を変えているとみられます。例えば、サワラは暖かい海を好み、もともと東シナ海や瀬戸内海に多く生息していました。ですが、海水温の上昇で日本海などでの生息が確認されるようになりました。このほか、サンマは主に北太平洋に生息し、秋になると千島列島(ちしまれっとう)から日本列島の東岸を来遊するのが主流でしたが、現在はより沖合を来遊するようになっています。これらの魚が生息域を変えることで、日本近海でとれていた魚がとれなくなったり、特定の魚の漁獲量が減少したりしています。
Q 漁獲量が増えている魚もあるの?
A 日本の全体的な漁獲量は減少していますが、地域によっては、これまでとれなかった魚がとれたりして、漁獲量が増加している魚の種類もあります。特に、北海道のブリの漁獲量は10年ごろから増え、20、21年は全国トップになるほどに増加しました。宮城県のサバやタチウオ、福島県のトラフグなどは10年前と比べて大幅に漁獲量が増加しています。これらの現象は、地域の名産物(めいさんぶつ)であった魚がそうでなくなったり、反対にこれまでとれなかった魚がとれることでその地域の水産物になったりと、我々消費者にも大きな影響を与えています。現場の漁師からは「海の変化に困惑している」との声が聞かれます。
◆国産が食べられなくなるの?
生産力維持へ さまざま工夫
Q このまま漁獲量が減り続けたら、国産の魚を食べられなくなる日がくるのかな?
A たしかに、海洋環境の異変が進行し続ければ漁獲量の減少は今後も進むことが予想されます。一方、国や自治体、漁業協同組合(ぎょぎょうきょうどうくみあい)などは現状の漁獲量の減少に歯止めをかけようと、魚介類(ぎょかいるい)の多様性や生産力を維持できる「持続可能な漁業」の取り組みを行っています。例えば、青森県五所(ごしょ)川原(がわら)市は、大和(やまと)しじみの操業期間や漁獲量などの制限を持続的に行い、安定的な生産を実現しています。また、北海道のホタテは多くの水産物が生産量を減らしている中、長年、養殖業も合わせて年間約30万~40万トンの生産を維持し続けており、13年に環境への配慮と水産資源の持続可能性を実現した漁業に与えられる国際的なエコラベル認証を取得しています。
Q 私たちにできることはあるの?
A 海にやさしい環境への配慮を一人一人が心がけることが大切です。海洋ごみや海岸に不法投棄されたごみなどによる海洋汚染は、魚の生態系にも大きな影響を及ぼすとされています。エコバッグやマイボトルを使用してレジ袋やペットボトルの使用を控えたり、ビーチクリーンや河原の清掃活動(せいそうかつどう)に参加したりするなど海洋環境に貢献できる取り組みは多くあります。小さな取り組みが海の資源保全につながり、魚を食べられる日常を守ることにつながります。(社会部北海道グループ)<グラフィック 大石真規子>