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毎日新聞2025/1/30 東京朝刊852文字
バルト海から回収されたいかり。昨年12月にフィンランドとエストニアをつなぐ海底ケーブルを傷つけた疑いで拿捕されたタンカーのものとみられる=ロイター
現代の日常生活や経済活動を支える重要インフラに対する脅威が高まっている。
ロシアと欧州諸国が面するバルト海で、海底ケーブルの損傷が相次いでいる。今月26日には、スウェーデンとラトビアを結ぶ光ファイバーケーブルが破壊された。この3カ月で4例目だ。
光ファイバーを束ねた海底ケーブルは、情報の大動脈だ。世界の海に張り巡らされ、総延長は地球35周分の140万キロに及ぶ。かつての人工衛星に代わり、インターネット通信や国際電話など世界の国際通信の99%を担う。
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これまで、底引き網やいかりなどで損傷を受けた事例が年約100~200件報告されてきた。しかし最近は、意図的な攻撃が疑われるケースも目立つ。
昨年12月には、フィンランドとエストニアを結ぶ送電用ケーブルなどが破壊された。100キロにわたっていかりを引きずった痕跡が海底にあり、フィンランドの捜査当局は現場付近を航行していたタンカーを拿捕(だほ)した。
欧州連合(EU)などは、ウクライナに侵攻したロシアが制裁を回避して石油を不正輸出するためのタンカー群「影の船団」の関与を疑っている。
複数の海底ケーブルが同時に切断され、インターネット通信が途絶した場合、金融取引や国家間の情報共有の混乱など、影響は計り知れない。
北大西洋条約機構(NATO)は安全保障上のリスクが増大したとして、今月半ばからバルト海の防衛を強化する軍事作戦を開始した。人工知能(AI)を活用して不審船を検知し、情報を共有する有志国の取り組みも始まった。
ただ、海底ケーブルの大半は民間企業が所有しているため、国家による保護が行き届いていない。国際的な法規制も不十分だ。
国連海洋法条約は、公海で海底ケーブルを損壊した自国の船舶や乗組員を処罰する法令の制定を加盟国に求める。だが多くの国が未制定で、破壊行為の歯止めの役割を果たせていない。
海底ケーブルは、デジタル時代に不可欠な地球規模の情報インフラだ。各国が危機感を共有し、実効性のあるルールを早急に整備することが求められている。