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毎日新聞2025/2/2 東京朝刊有料記事949文字
エストニアの「オンライン死亡届」申請のイメージ図=日本・エストニアEUデジタルソサエティ推進協議会の牟田学理事作成
<滝野隆浩の掃苔記(そうたいき)>
前回、関根千佳さん(67)が父親を亡くし死後の手続きに振り回された話を書いた。「家族がそばにいる」が前提の仕組みだからこうなる。遠方に住む親が死んだら、みな同じ苦行をしいられる。
誰もが使えるモノやサービスを最初からデザインする「ユニバーサルデザイン(UD)」の考え方で社会を変えたいと起業した関根さんは「エストニアではこんな心配はないらしい」と言った。バルト海に面したデジタル先進国はどうなっているのか。日本・エストニアEUデジタルソサエティ推進協議会の牟田学理事にオンラインで話を聞いた。
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エストニアは第二次大戦中に旧ソ連に併合され、1991年に独立回復した。いまでは欧州連合(EU)加盟国である。人口約136万人の小国ながらIT産業を中心とした起業が盛ん。「電子政府」を構築し、ほとんどの行政手続きがオンラインでできるという。
「死亡届は遺族が出す必要はありません」。牟田さんの説明にまず驚く。死亡したら医療機関側が健康情報システム経由で情報を送り、「親権の変更」「婚姻関係の終了」などが登録される。死亡証明書は役所から遺族に届く。葬儀に伴う給付金などの申請も役所に行く必要はない。
さらに結婚、出産といった人生の節目で「何をすればいいのか」がわかる個人用ポータル(窓口)が用意されている。亡くなった時の情報は「愛する人の死」の項目。時系列に5段階に分けて解説され、たとえば相続については「公証人の予約」までクリックして自分でやれるようにできている。牟田さんは言う。「デジタル化が進めば自治体の窓口業務が要らなくなる。職員はほかの仕事ができます」
エストニアでは利用者が最優先なのだ。羨ましい。民間の契約解除なども同じだろう。日本ではサービス提供側の理屈で固まっている。親が死んだら悲しいのに、煩雑な手続きのストレスで悲しむ暇もないのはおかしい。関根さんはこう訴えた。「日本の死後の手続きはデジタル化されていないし、UDでもありません。これではこれからの多死社会にまったく対応できません」。親の死後手続きでたいへんな経験をした人は多いと思う。体験談を聞きたいです。手紙か、メールは以下へ。t.shakaibu@mainichi.co.jp(専門編集委員)